ロバ(驢馬)は日本では馴染みが薄い動物で、動物園へでも行かないとお目にかかれない。しかし、子供時代に読んだイソップ寓話の『王様の耳はロバの耳』を通じて、ロバの耳が長い事を知る日本人は多い。ロバの耳はウサギの耳のように長いので、かつて日本ではロバを「ウサギ馬」と呼んでいたという話を聞いた記憶がある。

 ロバは奇蹄目ウマ科ウマ属ロバ亜属の動物で、ウマ科の中では最も小型だが、古代から家畜として飼われ、粗食に耐え、力が強いことから、農作業や運搬に使われた。筆者は中国だけでなく、中東やアフリカでも穀物を挽く石臼にくくり付けられ、日がな一日石臼の周りを回って粉挽き作業に従事するロバや、大きな荷物を運ぶロバを何度も見ている。ロバが家畜化されたのは5000年ほど前で、人が野生種の「アフリカノロバ」を飼育したのが起源と言われている。ロバ亜属は「アフリカノロバ」、「アジアノロバ」、「チベットノロバ」の3種類に分かれ、それぞれが各地で順次家畜化され、人々の最も身近な動物の一つとして位置付けられるようになり、今日に至っている。

“龍の肉”に匹敵

 英語ではロバをassとかdonkeyと呼ぶが、辞書によれば、前者は野生のロバを意味し、後者はその家畜化したものを指すのだという。雄のロバはその身体に比べて長大な一物(ペニス)を持つことで知られ、親子の見境なく交尾することから「畜生」と見なされる一方、馬と比べて頑固で、従順でなく、融通が利かないことから「愚か者」と揶揄されてきた。米国・民主党のシンボルはロバ(donkey)だが、後に第7代大統領となった当時(1828~29年)大統領候補であったアンドリュー・ジャクソン(Andrew Jackson)が、敵対する共和党から“Jackass”(馬鹿のジャクソン)と呼ばれたのを逆手に取って、ロバを民主党のシンボルとしたのだと言われている。

 20年程前、筆者は出張で訪問した甘粛省の山村で“金銭肉”なる料理を歓迎宴の前菜として供されたことがある。“金銭肉”の由来は、その形状が穴開き硬貨に似て、円形で真ん中に丸い穴が開いている肉を薄切りにした物だからだが、肉は燻製のような茶褐色で透明な代物だった。筆者が1枚の金銭肉を口に入れて味わうと、村人たちは笑いながら「これは加工したロバのペニスを輪切りにした肉」だと種明かしをしてくれた。その味がどうだったかは忘れたが、珍味の一つであることは間違いない。中国には“天上龍肉, 地上驢肉(天上の龍の肉、地上のロバの肉)”という言い回しがあり、ロバの肉は天上の龍の肉に匹敵するほど栄養価が高いと言われている。上述した歓迎宴では金銭肉以外のロバ肉料理も供されたと思うが、辺鄙な山奥の料理としては美味であった記憶だけが残っている。