“北京大学”法学部教授の“賀衛方”は、「当時の論証では三峡ダムの長所は下流の水量を有効的に調整できるとされた。しかし、現在の状況は正に逆で、長江の下流が干ばつの時は、三峡ダムは貯水を必要とし、下流に水害が発生した時は、三峡ダムは増水により水門を開いて放水をする必要がある」と述べているが、これは現実を的確に言い当てている。

現実は逆

 要するに、現実の三峡ダムは建設当初の最大目的であったはずの洪水防止機能を全く果たしていないのである。長江の中・下流域に大雨が降れば、中流域に所在する三峡ダムは満水により水門を開けて放水することを余儀なくされる。下流域はただでさえも大雨による増水で氾濫直前にあるのに、三峡ダムから排出された膨大な水量が加わることで、長江沿いの地域に甚大な洪水被害をもたらしているのだ。一方、長江の下流が干ばつに襲われて水を必要とする時期には、三峡ダムは一定の水量を貯水しておく必要性から放水を行っておらず、下流域の水不足を知りながら見殺しにしているのが実情である。

 三峡ダムの建設費は主として「三峡プロジェクト建設基金」(以下「三峡基金」)によってまかなわれた。三峡基金は全国の電気料金をキロワット・アワー(kwh)当たり4厘(約0.064円)引き上げることで調達されたもので、国民から強制的に徴収したものだった。2013年6月7日に“国家審計局(日本の会計検査院に相当)”が発表した「長江三峡プロジェクト竣工財務決算草案検査結果」によれば、2011年12月末までに投入された三峡プロジェクト建設資金は2079億元(約3兆3264億円)で、そのうちの78%に相当する1616億元(約2兆5856億円)を三峡基金が占めた。その後、1000億元(約1兆6000億円)以上の三峡基金が追加投入されたことから、三峡ダムの建設に当たっては中国国民が負担した金額は1人当たり200元(約3200円)という計算になる。それにもかかわらず、三峡ダムが完成すれば安くなるという話だった電気料金は逆に高くなったのだった。

 三峡ダムを建設するために、200万人近い人々が移転を余儀なくされただけでなく、完成した三峡ダムの貯水湖周辺では土砂崩れや陥没が多発し、汚泥の沈殿や水質汚染が進んでいる。また、従来は長江の渇水期でも水をたたえていた“洞庭湖”や“鄱陽湖”などの湖沼は干上がることが多くなったばかりか、増水期には例年のように洪水が発生している。最終的には3000億元(約4兆8000億円)もの巨資を投じて建設した三峡ダムが最大目的であったはずの洪水防止機能を果たせないなら、その建設は一体何のためだったのか。<注2>

<注2>一口に4兆8000億円と言うが、当時の人民元の価値は日本円に換算すれば10倍の値打ちがあったので、実質的な総工事費は48兆円と考えることができる。