ところで、本事件の発生から6月中旬までの経緯は、本リポートの2016年5月20日付「若き研究者は偽りの買春逮捕の末に殺されたのか」および6月17日付「雷洋事件続報、売春逮捕は警官による偽装が濃厚」を参照願いたい。上述した検死鑑定意見書は検死が行われてから47日目、雷洋が死亡してから53日目の6月30日にようやく公表されたのだった。また、検死鑑定意見書の後半に記されている北京市公安局昌平分局東小口派出所の副所長「邢某某」と補助警官の「周某」の2人は、雷洋事件を担当した北京市検察第四分院が雷洋を逮捕した当事者として立件調査の対象としていた警官5人のうちの2人である。また、「邢某某」の実名が“邢永瑞”であることは判明しているが、「周某」の実名は公表されていない。とにかく、北京市検察第四分院がこの2人を職務怠慢罪の容疑で逮捕すると決定したということは、残る3人の警官は何の罪も問われないことを意味する。

警官5人中2人を職務怠慢罪に

 職務怠慢罪とは、国家機関の職員が責任を負わないことが甚だしく、自己の職責を履行しない、あるいは真面目に履行しないことにより、公共財産、国家と国民の利益に重大な損失を及ぼす行為を意味する。中国刑法の第9章“瀆職罪(汚職罪)”にある第397条には、「国家機関職員が職権濫用あるいは職務怠慢により公共財産、国家と国民の利益に重大な損失を被らせた時は、3年以下の有期懲役あるいは“拘役(拘禁して労役に服せしめる刑罰)”に処す。情状が特別に深刻な時は3年以上7年以下の有期懲役に処す」とある。

 雷洋の妻である呉文萃の委任を受けた弁護士の“陳有西”が北京市人民検察院へ提出した訴状には、雷洋を買春容疑で逮捕した北京市公安局昌平分局の警官を“故意傷害致死罪”、職権濫用罪および証拠ねつ造幇助罪で告発しており、北京市検察第四分院が警官2人の逮捕を決定した職務怠慢罪の容疑とは大きな差がある。

 検死鑑定意見書に記載されているように、雷洋の死因が「胃の内容物が気道に吸引されたことによる窒息死」であるならば、その原因は何なのか。雷洋が自ら進んで胃の内容物を気道に吸引することはありえない。医学専門家によれば、胃の内容物が逆流して気道へ入るケースで考えられるのは、生理的、病理的、外部的という3種類の要因で、生前は非常に健康であったという雷洋の場合で考えられるのは外部的要因しかない。事件の経緯から考えられるのは外部から激しい衝撃を受けた可能性であり、「雷洋の遺体は睾丸が大きく腫れ上がっていて、太腿には青あざと血痕が見られ、明らかに外部から強力な打撃を受けて死に至ったものと判断した」という雷洋の家族の証言が思い出される。