6月20日以降、上述した2件以外にも広東省や甘粛省などで類似の飛び降り自殺騒動が発生したが、その発端となったのは6月20日に甘粛省“慶陽市”で19歳の女性“李依依(りいい)”(仮名)が下層にデパート“麗晶百貨”が所在する25階建てのマンション“麗晶公寓”の8階窓外にある小さなベランダから飛び降り自殺を遂げた事件だった。李依依は高さ35mの8階ベランダに腰掛け飛び降りるまでに4時間半を過ごしたが、最後は救助しようとした消防隊員の手をすり抜けてその身を空中へ躍らせたのだった。この彼女にとって最後となった4時間半に麗晶公寓前の地上に集まった多くの野次馬たちは、彼女に向かって「早く跳べ」、「どうして跳ばないんだ」などと自殺の決行を煽り続けたのだった。
中国では李依依の飛び降り自殺は大きな話題となり、中国社会に問題を提起したのだった。李依依が飛び降り自殺を遂げることになった事件の経緯を振り返ってみる。
「クラス担任に暴行された」
【1】2016年9月から“慶陽六中(慶陽第六高校)”の3年生となった李依依にとって“高考(全国統一大学入試)”までは残すところわずか1年であった。その高校3年の授業が始まって間もない9月5日の午後、李依依は突然の胃痛に襲われた。胃痛は彼女の持病であり、学生宿舎は比較的寒いので、それを心配した某先生が李依依に電気毛布が使える女子職員宿舎の109号室で休息を取るように手配してくれた。その日の夜は雨で、8時過ぎに学校は停電になった。まだ停電が続いていた8時30分頃、李依依のクラス担任である“呉永厚”が女子職員宿舎へ入って行った。
【2】クラス担任である呉永厚は李依依が休息を取っているのは109号室であることを聞いていたので、109号室のドアを開けて中に入った。暗闇の中で呉永厚は李依依が寝ているベッドの横に座ると、李依依に病状を尋ねた。李依依が「とっても良くなりました」と答えると、呉永厚は突然手を伸ばして李依依の顔をなぜた。そして彼女の身体を触り始め、遂には彼女を抱きしめて身動きできないようにした。李依依は抵抗しようとしたが果たせず、呉永厚は一層力を強めると、彼女の顔や唇に接吻し、耳たぶを噛んだ。呉永厚の手はずっと李依依の背中を愛撫しつつ、彼女の着ている服を脱がそうとした。
【3】この時、親友“羅娟娟”(仮名)の父親で物理教師である“羅宇”(仮名)がドアの外から李依依の名前を呼んで、ドアを開けて部屋の中に入って来た。これに驚いた呉永厚は李依依を抱きしめていた手を離すと、ベッドから少し離れた場所に移動し、何事もなかったように振る舞った。羅宇は李依依の頭髪と衣服が乱れていたので、呉永厚が李依依に不埒な行為をしたのではないかと疑ったが、呉永厚の年齢が50歳近いことを思い出して疑念を打ち消した。停電では電気毛布も使えないので、羅宇は李依依を学生宿舎に戻すことを決断し、呉永厚に李依依を学生宿舎まで送らせたが、李依依はこの時程恐かったことはなかったと後に述べている。
【4】それはとにかくとして、李依依は羅宇のおかげで呉永厚に暴行されそうになったのを危機一髪のところで難を逃れた。なお、本来、李依依のクラス担任は別の人物だったが、7月に病を得て入院し、急きょ後任として高校3年2組のクラス担任になったのが呉永厚だった。李依依が呉永厚と初めて会ったのは夏休み中に行われた補習授業だったが、教員室で呉永厚は突然に李依依の顔をなぜた。この時以来、李依依は呉永厚に何かされるのではないかと恐れを抱くようになっていたのだ。呉永厚は1967年生まれで、2016年の事件当時49歳。1992年に“西北師範大学”化学学部を卒業し、2011年に“慶陽六中(慶陽第六高校)”へ配属になり、2014年に“高級教師(大学の助教授に相当)”資格を取得したのだった。
【5】翌日の早朝、李依依は学校の心理指導室へ行き、泣きながら指導教官に事情を説明したが、指導教官は「この問題の解決は自分の手に余るので、状況を学校の責任者である“段”姓の人物に報告すると述べただけだった。事件の2日後、クラス担任の呉永厚は李依依に対して「私が間違っていた。頭がおかしくなり、一時的な衝動で貴女に不埒なことをしてしまった。どうか許して欲しい」と謝罪した。しかし、いくら謝罪されても、許せないことがある。しかもそれをしたのはクラス担任だったのである。
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