【5】各地で発生した盲井殺人事件には共通点がある。鑫海鉄鉱所殺人事件を例に挙げると、鑫海鉄鉱所は人跡稀な広く果てしない草原の中にあり、施設は粗末で、働く鉱夫たちは全て外地から出稼ぎに来た者たちだった。容疑者たちは辺鄙な場所にあり、労働条件が劣悪で、管理が行き届かない中小鉱山を探しては、入り込んで悪事を重ねていたのだった。こうした鉱山では鉱夫の身元確認は厳格でなく、鉱山事故が起こって死傷者が出ても、監督官庁に届け出ることなく、鉱山主と当事者およびその親族と示談で済ませるのが通例だった。なお、17件の殺人事件のうち9件は山西省の中小鉱山で発生していた。

入坑3日目に殺害

【6】犯罪を行う際の最重要事項は、殺害する獲物の物色である。彼らは職探しの労働者と雇い主が集まる労働市場へ出向き、仲間の人相に似た人物を探す。最も良いのは“流浪漢(ホームレス)”である。適当な人物が見つかったら、人相が似ている仲間の身分証を示すことで鉱夫として鉱山に入り込ませる。彼らは物色した人物に対して通常より高い日当を提示する。一般に鉱夫の日当は200元(約3200円)だが、獲物に対しては300~400元(約4800~6400円)を提示する。但し、そんな金額を毎日支払う訳には行かないので、獲物が働き始めてから5日以内、通常は3日目には手を下して殺害するのである。

【7】殺害方法には2種類ある。具体的には、獲物の頭をつるはしで殴りつけて気絶させた後に、(Ⅰ)予め準備しておいた鉱石満載の運搬車を押してひき殺す、(Ⅱ)坑道の上部にある石を梃でこじ開けて横たわる獲物の上に落下させて顔をめちゃくちゃにして殺し、落盤や爆発事故があったと虚偽の報告をするの2種類である。こうして獲物を殺害した後は、獲物の妻や父母になりすます人物を探して鉱山主と示談交渉をさせ、賠償金を騙し取る。一連の盲井殺人事件では賠償金の額は50万~80万元(約800万~1280万円)であったという。賠償金さえ受け取れば獲物の遺体は不要となるから、付近の火葬場へ運んで火葬にし、残った遺骨はどこかに捨てて、一件落着となる。

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