宋金明が崩れ落ちたのを見た元鳳鳴は、後ろも見ずに出口へ向けて坑道を走った。遠ざかる元鳳鳴の後ろ姿を見送りながら唐朝陽はその場に倒れた。元鳳鳴が出口に到達した頃、坑内で発破を行う合図の警報が鳴り響き、坑内に唐朝陽と宋金明の2人を残したまま爆発が起こった。発破による死者の示談を急ぎたい鉱山主は、唐朝陽の甥である元鳳鳴に3万元(約48万円)の賠償金を支払う書類に同意の署名をする要求した。当初は拒否したものの最終的には署名を強制させられた元鳳鳴は3万元を懐に鉱山を去った。その直後に火葬場に立ち寄った元鳳鳴は火葬場の煙突から立ち上る唐朝陽の遺体を焼く煙をじっと眺めていた。

事実は映画より残酷なり

 さて、5月30日にバヤンノール市検察院がバヤンノール市中級裁判所に公訴を提起した「盲井式殺人事件」とはどのような事件なのか。6月10日付の北京紙「新京報」が報じた「内蒙古・盲井殺人事件、74人が起訴される」と題する記事の概要は以下の通り。

【1】同僚を鉱山の立坑内で殺害し、鉱山事故を偽装して賠償を請求する。これが映画「盲井」の中で描かれた内容だが、現実は映画よりも遥かに残酷である。5月30日、内モンゴル自治区バヤンノール市検察院は同市中級裁判所に対し“艾汪全(がいおうぜん)”、“王付祥”など74人の被告人を、山西省、陝西省など6つの省・自治区で17人を故意に殺害し、鉱山事故を偽装して賠償金を騙し取ったことによる、“故意殺人罪”<注2>、詐欺罪、恐喝罪などの容疑で起訴した。これら74人の被告人の多くは雲南省の“昭通市塩津県”から来ており、塩津県では“殺猪匠(豚殺し屋)”と呼ばれるならず者だった。彼らは徒党を組んで活動し、計画、殺害する獲物の物色と選定、殺害、死者の親族になりすますなど細かい分業体制を敷いていた。

<注2>“故意殺人”とは「殺意を持ってなされた殺人」を意味する。

【2】検察側によれば、5年の間に17人が彼らの手にかかって殺されており、これら被害者の一部分は今に至るも遺骨の所在も分からず、身分も特定されていない。但し、殺害された17人は被害者の一部であり、警察側の人物は依然として35もの手がかりを調査中であり、最終的に死者の実数がどれほどになるかは想像すらできないと述べた。

【3】盲井殺人事件で現場の一つになったのは、バヤンノール市に属する“烏拉特(ウラド)中旗石哈河鎮”に所在する“大安鑫海鉄礦処(鉄鉱所)”(以下「鑫海鉄鉱所」)である。鑫海鉄鉱所は山東省“莱蕪(らいぶ)市”出身で姓が“趙”の兄弟が開拓したもので、すでに6年以上の歴史を持つが、殺人事件の発生が確認された後の2015年の初めに閉鎖された。

次ページ 不払い騒動をきっかけに発覚