
往年の映画スターである片岡千恵蔵(1903年~1983年)が、私立探偵の多羅尾伴内を演じた人気映画シリーズのキャッチフレーズは「7つの顔を持つ男」だった。多羅尾伴内はNET(現・テレビ朝日)が1962年に「七つの顔の男」という題名でドラマ化したし、1978年には劇画『七つの顔を持つ男 多羅尾伴内』(小池一夫作・石森章太郎画)が講談社から出版されている。
映画のクライマックスで、悪人たちの「お前は誰だ」という問い掛けに答えて、片岡千恵蔵扮する多羅尾伴内が、「ある時は私立探偵、ある時は競馬師、ある時は画家、またある時は片目の運転手、ある時はインドの魔術師、またある時は老警官」と絞り出すようなドスの利いた声で話した後に、「しかしてその実体は、正義と真実の使徒、藤村大造だ」と本名を明かすと、観客たちは一斉に画面の中の片岡千恵蔵に拍手を送ったものだった。1956年(昭和31年)に小学校へ入学した筆者は、当時見た映画の筋は忘れたが、今なお「多羅尾伴内」と「7つの顔を持つ男」という言葉だけは鮮明に記憶している。それだけ片岡千恵蔵演じる多羅尾伴内が、小学校低学年であった筆者には格好良い正義の味方に思えたのであった。
劉洪濱とは何者?
6月21~23日、多くの中国メディアは、中国版の「7つの顔を持つ“神医(名医)”」に関する記事を報じた。各メディアが報じた記事の内容を取りまとめた概要は以下の通り。
【1】ここ数年、“劉洪濱”という名前が多くの地方テレビ局の“養生(健康増進)”番組の中で頻繁に出現している。彼女の肩書は多種多様で、「中華中医医学会リューマチ分会委員」<注1>、「中華中医医学会鎮咳(せきをしずめる)分会副会長」、“北大専家(北京大学専門家)”、“高級栄養師(高級栄養士)”など様々であり、ある時は“苗薬(少数民族である苗族の伝統医薬文化)”の伝承者になり、またある時は“蔵薬(チベット医薬)”の後継者にもなる。
<注1>“中医”とは中国伝統医学、即ち漢方医学を意味する。
【2】テレビ画面の中での医学専門家になりすました劉洪濱はきれいな白髪頭に、厳粛な顔つきで、喘息に効く“苗仙咳喘方”や“苗祖定喘方”、リューマチに効く“薬王風通方”や“苗家活骨方”、糖尿病に効く“唐通5.0”、しみ取りに効く“老院長祛斑方”、心疾患や脳血栓に効く“蒙薬心脳方”、万能薬の“天山雪蓮”などについて薬効をまことしやかに説明し、各種の肩書で“神医”としての権威付けをして宣伝販売を行っていた。
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