2017年世界卓球選手権デュッセルドルフ大会の開幕日、5月29日付の香港メディアは次のように報じた。
“中国国家乒乓球隊(中国国家卓球チーム)”女子チーム監督の孔令輝は先頃、貸付金の返済を求めるシンガポールの高級ホテル「“濱海湾金沙酒店(Marina Bay Sands)”」(以下「金沙酒店」)により“香港高等法院(高等裁判所)”へ訴えられた。金沙酒店の告訴状によれば、被告の孔令輝は金沙酒店傘下にあるカジノの顧客であり、双方は2015年2月19日付で融資契約を締結し、同日に孔令輝は100万シンガポールドル(SGD)(約8000万円)を借り受けた。そのうちの90万SGDはチップで受け取り、残りの10万SGDは“頂級玩家(Top Player)”<注2>の資格を獲得するための費用であった。ところが、現在に至るまでに孔令輝が返済したのは54.5万SGD(約4360万円)だけで、45.5万SGD(約3640万円)が返済されていない。このため、金沙酒店は孔令輝を香港高等法院へ告訴した。
なぜ香港で?
なお、後に判明したところでは、本件の原告は金沙酒店ではなく、金沙酒店の娯楽場を経営するMarina Bay Sands Pte. Ltd.(以下「Marina」)であるという。ところで、ここで疑問なのは、Marinaが本件の訴訟を中国国内の裁判所ではなく、香港の裁判所に提起したのはどうしてかということである。この点について、中国の某弁護士は、「中国の法律では“賭債(ばくちの借金)”を認めておらず、たとえ中国国内で賭博場が訴訟を提起しても、受理されず、融資契約は無効と判断される。このため、金沙酒店は孔令輝が香港に財産を持っていることを知っているか、あるいは、香港で訴訟を起こせば、その影響により孔令輝が残金を返済せざるを得なくなると考えた可能性が高い」と述べている。恐らく、この見解は正しいものと思われるが、とにかく訴訟が提起されたのは香港の裁判所であった。
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