13.9億人の人口に対して精神科医と心理治療士がわずか3万2000人しかおらず、しかも精神科医は専門医の水準に到達していない実態があり、一方には8000万人と推定されるうつ病患者がいる。これではうつ病を治癒して患者を削減することは難しい。中国は急速な経済発展を遂げたが、今では中進国の罠に陥って発展が停滞し、人々は社会の厳しい現実に直面して重圧に押しつぶされ、うつ病患者が増えることはあっても減ることはないのである。

 2012年11月に中国共産党中央委員会総書記に就任した習近平は、2013年1月に「トラ退治とハエ駆除」を同時に行う旨の重要演説を行い、“反腐敗(汚職腐敗反対)”闘争の開始を宣言した。この闘争を陣頭指揮したのは習近平の盟友であり、党中央政治局常務委員で、党“中央紀律委員会”書記の“王岐山”であった。王岐山が指揮した反腐敗闘争では、2013年から2017年までの5年間で120人の閣僚級の高級官員が逮捕され、そのうち105人が起訴された。また、摘発された官員は130万人に上り、25万4419人が汚職腐敗で立件された。

「王岐山に会うくらいなら、閻魔に会った方が良い」

 中国の官界では“寧見閻魔、不見老王”という言葉が流行している。この意味は「老王に会うくらいなら、閻魔(えんま)に会う方が良い」だが、実は香港の文豪で中国侠客小説の大家“金庸(きんよう)”の作品「書剣王仇録」にある“寧見閻魔、莫見老王”(意味は同上)を引用したものである。後者の“老王”は輸送業者の用心棒で、人々に恐れられた剣客の“王維揚”であったが、前者の“老王”は王岐山を指す。「王岐山に会うくらいなら、閻魔に会った方が良い」とは言い得て妙だが、汚職腐敗行為を行った官員にとってはそれほどに恐ろしいのが王岐山であるということである。

 中国では官員自殺の多発を“自殺潮(自殺ブーム)”と呼ぶが、その原因を作ったのは習近平であり、官員を自殺に追い込んだのは王岐山である。王岐山は2017年10月に党政治局常務委員と党中央紀律委員会書記を引退し、2018年3月からは国家主席の習近平に次ぐ国家副主席に就任しているが、その威光は依然として強いものがあり、反腐敗闘争を裏で指揮していると言われている。

 筆者は常々、「中国はモグラ叩きゲームの国で、何かを取り締まるキャンペーンが始まると、人々は穴倉に潜み、嵐の過ぎるのを待ち、キャンペーンの圧力が緩むと徐々に顔を出し、何もなかったように、従来通り悪事を働く」と説明している。習近平が主導し、王岐山が陣頭指揮した反腐敗闘争は5年を経過してもなお継続している。

 このため、嵐の過ぎるのを待ち望んでいたうつ病患者の官員たちは、「王岐山に会う」、すなわち「王岐山の指揮の下で行われる汚職腐敗調査を受ける」のを恐れて、次々と自殺を遂げ、上述した3つの利点を享受しているである。「すまじきものは宮仕え」と言うが、たとえ権力を持ち、汚職腐敗で懐を肥やせるとしても、自殺するくらいなら、官員にはならない方が良さそうだ。