さて、楊舒平がスピーチを終えると、会場の聴衆は割れんばかりの拍手を楊舒平に送り、彼女がメリーランド大学での学生生活を通じて習得した「新鮮な空気」の重要性について賛意を表明したのだった。上述した楊舒平のスピーチは極めてまっとうな内容であり、誰が考えても問題はなさそうに思える。しかし、彼女が中国からの留学生であることが災いし、そのスピーチの内容が大きな問題に発展したのである。

中国を真っ向から批判し、辱めた

 楊舒平がメリーランド大学の卒業式で行ったスピーチの内容は、卒業式に出席していた中国人留学生にとっては祖国の中国を辱めるものと言えた。スピーチの内容に不満を持ち、反発した中国人留学生の誰が、どのようなルートで「楊舒平のスピーチ」の動画を中国国内に伝えたかは定かではないが、中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」の国際版である「環球時報」およびそのネットサイトである「環球網(ネット)」は5月22日付で、前者は記事として、後者は動画そのものを報じたのであった。

 環球時報は、楊舒平がメリーランド大学の卒業式で行ったスピーチは、中国の学生や全米各地の留学生の不満を誘発し、動画が中国国内に伝わった後はインターネット上における質疑を引き起こしたと報じた。環球網は当初はスピーチ全体の動画を英語と中国語の字幕付きで配信していたが、その後にこれを転載した“網易視頻(網視動画)”などはスピーチの冒頭と結語だけに編集して、肝心な内容を割愛した動画を配信した。これは恐らくスピーチの内容に危機感を覚えた当局が各プロバイダーに対し、そうするように指示を出したものと思われる。とにかく、楊舒平が米国で行ったスピーチの内容は間もなく中国国内に伝わり、ネット上に立てられたこの件に関するスレッドは、賛否両論が激しく対立して炎上した。

 要するに、楊舒平はスピーチの中で、中国の環境と自由度を何度も非難したのである。空気の汚い中国では常にマスクを常用する生活を送っていたから、米国も同様だろうと考えてマスクを5枚も持参したのに、実際に吸った米国の空気は新鮮で驚いた。また、中国では種々の敏感な問題について真実を確定するのは権力部門に限定されていたが、自由と民主主義を標榜する米国では誰もが自由に思ったことを発言することが許されている。我々、卒業生はこの「新鮮な空気」を享受する権利を決して手放してはならない。楊舒平はそう述べたのだが、それは国土の大部分を深刻な大気汚染の脅威にさらされ、中国共産党の専制下にあり言論の自由を封じられている祖国の中国を真っ向から批判し、辱めたものであった。