突然のエイズ告知を受けて動転した呉長棟は長年勤めた職場を辞して邳州市へ戻り、邳州市疾病予防抑制センター(以下「邳州市センター」)に出向いた。呉長棟が事の真偽を尋ねると、応対した医師は常州市で献血を行った際に採血した血液がHIV抗体検査で陽性と判定されたと説明したのだった。呉長棟は献血時に“居民身分証(身分証明書)”を提示したために、エイズ感染の連絡は身分証明書に書かれた住所がある邳州市センターへ連絡されたのだった。邳州市センターは呉長棟の実家に電話を入れて、「血液に問題がある」と理由を説明して呉長棟の居場所を確認した上で、呉長棟へ連絡してきたのだった。

 実家に連絡が行ったことは呉長棟にとって耐えがたい衝撃だった。すでに69歳の母親を含む家族が呉長棟の血液に問題があることを知っているのだ。呉長棟は離婚して一人娘を母親に預けて常州市へ出稼ぎに行っていた。自分がエイズで死んだら、母親と娘はどうなるのか。実家へ帰った呉長棟に対して家族は血液に問題があるとはどう意味かと尋ねたが、呉長棟はちょっとした病気だと言葉を濁し、人知れず涙を流し、眠れぬ日々を送った。

 しばらくして冷静になった呉長棟は、「自分がエイズに感染するようなことをした覚えがない以上は、誤判定の可能性は否定できない」という結論に達した。11月25日に“徐州市”内の医院で偽名を使ってHIV抗体検査を行ったところ、結果は陰性だった。その2日後の11月27日に徐州市疾病予防抑制センターで検査を受けたが、結果は陰性だった。さらに念を押すため、12月4日と12月21日に徐州市内の別の医院で検査を受けたが、全て陰性だった。こうして呉長棟のエイズ感染は誤判定だったことが確定した。彼は誤判定の責任を追及したが、関係機関は責任回避と責任転嫁に注力するだけで、呉長棟に対する謝罪もなければ、原因の究明すら行おうとしない。呉長棟は誤判定が確認されてから500日を経過しても依然としてエイズ感染のトラウマに悩まされている。

「偽陽性」を放置か?

 上記2例はHIV抗体検査の結果が陽性であったことからエイズ感染と診断されたものだが、実際は「偽陽性」であったものと考えられる。日本でもスクリーニング検査の偽陽性率は約1%であり、100人に1人の割合で偽陽性が出現している。但し、日本の場合には、検査は2段階方式で、スクリーニング検査の後に確認検査があり、偽陽性は確認検査では正しく陰性に判定されるため、誤判定が起こる可能性はほぼ皆無と考えられている。

 中国も日本と同様にHIV抗体検査の2段階方式を採っていれば、楊守法や呉長棟のような誤判定の被害者が出ることはないはずである。短期間に陰性が確認された呉長棟はまだしも、10年以上にわたって厳しい境遇を味わった楊守法の場合は悲惨であった。こうした誤判定や誤認が起こった場合に、当事者たる関係者に共通する常套手段は責任回避と責任転嫁であり、被害者に謝罪や賠償が行われることは滅多にない。