一方、エイズの知識が深まるにつれて、楊守法は定期的にエイズ治療薬を飲めば、発症を抑えられることを知った。最初の頃は、鎮平県疾病予防抑制センターから「1分(約0.17円)硬貨」大の白い錠剤を受け取り、1日1錠を3回に分けて飲んだが、飲むとすぐに激しい嘔吐に襲わるのが常だった。2005年10月に楊守法は城郊郷の“十里庄村”にあるエイズ治療所に収容された。ここではスタブジン(Stavudine)、ラミブジン(Lamivudine)などのアップグレードされた治療薬が供与されたが、服用後の反応は以前より緩和された。但し、毎日薬を服用することにより、楊守法の身体はますますむしばまれていった。夏は厚手の外套を着ても凍えそうに寒く、冬は布団にもぐり込んでも寒くて、ストーブが必需であった。また、手の震え、頭のぼやけ、耳鳴り、眼のかすみ、記憶力減退といった症状が進行した。

10年後の陰性判定

 2012年9月、楊守法は病状が悪化しため“南陽市第一人民医院”で治療を受けたが、その際に自分がエイズ感染者(HIV保菌者)であることを告知しなかった。その翌日、楊守法は前日に行われた検査の結果を受け取ったが、そこに書かれていた「HIV抗体陰性」の意味が理解できなかった。そこで医師に尋ねると、医師は「エイズに感染していないということだ」と答えた。そんな馬鹿なことがあるはずがない。楊守法は驚いて言葉を失った。今回の検査で、楊守法は食道炎、びらん性胃炎、胆のう炎、前立腺肥大などの疾病を患っていることが判明したが、これらはエイズ治療薬の長期服用による副作用と考えられた。

 楊守法は十里庄村のエイズ治療所に戻ると、HIV抗体の検査結果について意見を聞いたが、治療所の責任者は、「恐らくエイズ治療薬を服用していたために、陰性という結果が出たのだろうが、その検査結果は不正確だ」と断定したのだった。それならば、エイズ治療薬の服用を止めたらどうなるか。楊守法はエイズ治療薬を飲むのを止め、それから2年間が経過する前後に多数の医院を訪れてHIV抗体検査を受けたが、検査結果は全て陰性だった。

 こうして楊守法がエイズ感染者(HIV保菌者)でないことは確認された。思えば2003年から2014年までの約10年間に、楊守法はエイズ感染者として差別と偏見にさいなまれ、離婚により妻子からは見放され、治療薬の副作用で体はボロボロにされ、精神的にも追い詰められ、地獄の日々を過ごして来たのだ。

 2015年11月に楊守法の姪がネットの掲示板に楊守法が遭遇したエイズ誤判定事件の顛末を書き込んだことで、同事件はネットユーザーの注目を集め、転載を重ねることにより全国に知れ渡ることとなった。11月10日、“鎮平県衛生局”は7月15日に楊守法から要求を受けてHIV抗体検査を行った結果が陰性であった旨の発表を行ったが、2003年のHIV抗体検査時に残留していた楊守法の血液を今回改めて再検査した結果は陽性であったことから、その原因を残留血液のDNA検査を含めて究明すると表明した。