各流派が徐暁冬の挑戦を受けようとする風潮に慌てたのは国家認定の非営利組織“中国武術協会”だった。中国武術協会は中国武術の発展、普及、技術向上を目的とする全国的な社会団体である。5月3日、中国武術協会は徐暁冬と雷雷の“約架(決闘)”事件に関し、「中国武術協会は“約架”などの法律・規則違反の行為に断固反対する」旨の声明を発表した。その概要は以下の通り。

(1)徐暁冬と雷雷の“約架”事件はメディアや社会の注目を集めているが、中国武術協会はこの種の“約架”行為が“武徳(武術のモラル)”に背(そむ)くものであり、違法の可能性があることから断固反対する。

(2)武術は中華民族の伝統体育項目であり、民族の優秀な伝統文化であり、体を強くし、自分の身を守り、修行を積む功能を備えている。伝統武術は武術の根源であり、伝統武術の継承と発展には武術界各位の努力が必要である。各省、区、市の武術協会および関連組織は類似の“約架”事件が再発しないよう有効な措置を採っていただきたい。

「決闘」を禁止する協会の役員は…

 ここで問題となるのは、中国武術協会の役員構成である。協会役員は、主席3人《“栗勝夫”(中国武術9段)、“李成銀”(中国武術9段)、“朱天才”(太極大師)》、秘書長1人《耿軍(中国武術7段、少林武術9段)》、副秘書長3人《“張東武”(中国武術7段)、“白安有”(中国武術6段)、“楊暁明”(不詳)》の合計7人で構成されている。これら7人の中の李成銀と楊暁明の2人を除く5人は、河南省“焦作市”の管轄下にある“温県陳家溝”を源流とする陳氏太極拳および河南省“登封市”にある少林寺の関係者である。突き詰めて言えば、彼ら5人は、少林寺“方丈(住職)”の“釈永信”と親密な関係にあるということができる。釈永信は少林寺住職であるだけでなく、“中国仏教協会”副会長、“河南省仏教協会”会長であると同時に、中国の国会議員に当たる“全国人民代表大会代表”でもある。
 釈永信は少林寺をカネ儲けの手段として利用し、多数の企業を設立して商業化を図り、稼いだカネをばらまくことで権力者と密接な関係を築き、現在の地位を得たとされる。今や絶大な権力を有する釈永信は、職権濫用、派手な女性関係などから破戒坊主として少林寺関係者から度々告発されているが、巧妙に危機を乗り越えて今なお地位を保っている<注2>

<注2>釈永信については、2015年8月7日付の本リポート『ネットで告発「少林寺住職は生臭坊主」』参照。また、少林寺の商業化については、2008年10月31日付の本リポート『お金はいりません「大悲寺」 商魂たくましい「少林寺」』参照。