またも話が脱線したので、話を本題に戻す。上述したように、朝鮮中央テレビは3月29日午後に金正恩訪中の模様を編集した記録映像を40分間にわたって放映したが、この映像の中には習近平と金正恩が相互に“礼品(贈り物)”を贈る模様が約1分30秒含まれていた。この映像を見た中国の専門家は、その価値を次のように分析した(価格は控えめな数字)。

相互の贈り物の推定額は

A.【習近平が金正恩に贈呈した物】
1. “景泰藍(七宝焼き)”の花瓶 <高さ3m、最も太い箇所1.2m>:50万元以上
2. 景泰藍の食器一組<20個/組>:2万元以上
3. 白磁の茶器一組<12個/組>:5000元
4. 少なくとも1980年以前に生産された茅台酒5本:125万元
 <3月26日夜の歓迎宴会で少なくとも2本が消費された茅台酒と同じ物かは不明>
5. 1990年代に生産された茅台酒<飛天53度>6本:6万元
                  合計(A):183.5万元(約3120万円)

B.【彭麗媛が李雪主に贈呈した物】
1. ルビーあるいは赤メノウの首飾り一式<ブローチ1個、イヤリング1組、指輪1個>:3万元
2. スーツ(上着+スカート)1着およびブローチ1個:6000元
3. 各種デザインの高級錦布6枚(各2m): 60万元
4. カラー画集:値段不明
                    合計(B):63.6万元(約1080万円)

C.【金正恩が習近平夫婦に贈った物】
1. 野生の朝鮮人参 1本(不確定):10万元
2. 朝鮮人参 1本(不確定):2万元
3. 青色石の壺(つぼ)1個<高さ50cm>:5万元
                    合計(C):17万元(約290万円)

 上記の内容はあくまで推測の域を出ない話だが、これが正しいとすれば、中国側合計(A+B)が247.1万元(約4200万円)であるのに対して、北朝鮮側合計(C)は17万元に過ぎず、中国側の大幅な持ち出しになる。もしも、A.4の「少なくとも1980年以前に生産された茅台酒」が1本128万元の代物なら5本で640万元(約1億 880万円)になるから、(A)の合計は698.5万元(約1億1880万円)となり、中国側の持ち出し額はさらに大きなものになる。

 中国のネットユーザーの中には、市場価格128万元の茅台酒は茅台酒の醸造元である貴州茅台公司が中国政府に寄付したものではないかと想像をたくましくしている者もいるが、実際はどうなのかは分からない。こうした議論はともかくとして、習近平が金正恩をいかに丁重にもてなしたかは、宴会で供された茅台酒のグレードや贈り物の合計額からも見て取ることができる。要するに、習近平は中華帝国の皇帝として、拝謁するために訪れた属国の王である金正恩を親しくもてなし、貴重な土産物を下賜したと言えるのではないか。習近平は訪中した金正恩を、祖父の金日成、父の金正日が宗主国である中国に朝貢した時と同様に扱ったと言えるのではないだろうか。

 中国・隋朝の西暦590年頃に書かれた『顔氏家訓』には、「窮鳥懐(ふところ)に入るは、仁人の憫(あはれむ)所なり」とある。これは「追い詰められた鳥が懐に入れば、仁者はこれを憐(あわ)れむ」という意味だが、これを習近平と金正恩に当てはめれば、「追い詰められた金正恩が懐に飛び込んで来たので、仁者たる習近平はこれを憐れんで受け入れた」ということになる。今後、習近平と金正恩の関係はどうなるのか、皇帝と属国の王の関係になるのか、それとも金正恩は習近平皇帝の臣下になったとは思っていないのか。今後の展開を見守ろう。