宴会は国賓級の豪華なものであったが、習近平は金正恩と通訳を交えて談笑していて一向に杯も箸も取ろうとしなかった。このため、宴会に参加した大多数の人々は“按兵不動(兵を留めて進まない=時期を待つ)”の態勢で、ひたすら2人が話し終えるのを待っていた。ところが、こうした人々を尻目に、王滬寧は杯を取り上げて“白酒(アルコール度数が高い蒸留酒の総称)”を飲み始めたし、王岐山は箸を取り上げて目の前の置かれていた前菜を食べ始めた。

 余談だが、後日、この宴会の模様が国営の“中央電視台(中央テレビ)”のニュースで報じられると、これを見たメディアは、酒好きの王滬寧は待ちきれなかったのだろうし、王岐山はいつも通りマイペースと論評したのだった。2016年3月3日、“中国人民政治協商会議”第12期全国委員会の第4回会議の開幕式が終わり、習近平が壇上から退場しようと歩き始めると、後ろから追いついた王岐山が習近平の背中を軽く叩き、2人は言葉を交わしながら壇上を去った。いくら親しい関係にあろうとも、公開の席上で国家主席の背中を叩くのは通常では考えられない所業であり、それが王岐山のマイペース振りを示す逸話とされている。

 

 さて、話は元に戻る。翌27日の午前中、金正恩一行は“中国科学院”で開催された「中国共産党第18期全国代表大会(2012年11月)以降に中国科学院が獲得した独創的成果展覧会」を見学した。夫人の李雪主を伴って見学を終えた金正恩は、記念の揮毫を行い、深紅の色紙に「偉大な隣国中国の強大さを身近に体得した。中国が中国共産党の英明な指導の下でさらに大きな業績を獲得されるものと信じます。金正恩 2018年3月27日」としたためた。

 

 同日正午、習近平と彭麗媛は釣魚台国賓館内にある最高級レストラン“養源斎(ようげんさい)”で金正恩と李雪主を送別する昼食宴会を挙行した。宴会終了後、習近平と彭麗媛は、帰国する金正恩と李雪主が車に乗って去り行くまで見送った。こうして金正恩の非公式な中国訪問は終わり、金正恩一行は北京から再度専用列車で帰国の途についたが、金正恩の北京滞在時間はわずか2日間に過ぎなかった。金正恩が帰国した翌日の3月29日午後、北朝鮮の「朝鮮中央テレビ」は、金正恩の中国訪問を編集した映像を40分間にわたって放映したが、これと時を同じくして中国でも金正恩の中国訪問を報じ、中央テレビはニュース番組で金正恩の北京滞在中の映像を放映し、その他メディアも一斉にこれを報じた。

習近平自ら制定した規定を無視?

 メディアが報じた金正恩の訪中写真には、3月26日夜に開催された金正恩歓迎宴会のメインテーブルで酒を飲みながら談笑する習近平と⾦正恩の写真が含まれていた。この写真を見たあるネットユーザーは、習近平とその右隣に座る彭麗媛の中間に立つ黒服のウエイターが両手に1本ずつ持つ酒瓶の種類に違和感を覚えて注目した。それは中国で“国宴(国家元首や政府首脳が国賓や貴賓を招待する宴会)”に供される酒を意味する“国宴酒”の“茅台(マオタイ)酒”であり、しかもそれは瓶の形状や外観から見て非常に古く、極めて高価な品と考えられた。同人はこれを実証すべく、中国ネット通販大手の“京東”で“陳年茅台酒(古い茅台酒)”を販売している“歌徳(ゲーテ)盈香老酒行”(以下「ゲーテ老酒商社」)の商品を調べると、そこには金正恩歓迎宴会でウエイターが両手に持っていたのと瓜二つの茅台酒が売られていた。

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