「悪徳役人殺害」に喝采

 ところで、中国の庶民が最も関心を示すのは、庶民が主として第二類と第三類の黒悪勢力に分類される悪徳役人を成敗した事件である。2018年3月2日付の本リポート「22年前に殺された母の仇討ち、その執念の源は」で報じた“張扣扣”は、敵対していた王家の父子3人を殺害したが、殺害された王家の長男“王校軍”は現職の役人であった。このため、この事件は中国で「母の敵討ち殺人」として報じられると同時に、百姓無処申冤導致的民殺官(冤罪を晴らそうにも訴える場所を持たなかった庶民による役人殺し)”の典型的な例として注目されたのである。

 中国では公権力および役人による理不尽な扱いに抗議して役人を殺害する事件が報じられると、庶民がこれに共感して喝采を送り、犯人を英雄視する風潮がある。これも今回の掃除通知が出された重要な要因となっているものと考えられる。そうした事件の代表例を2件挙げると以下の通り。

【1】2008年7月、北京市出身の失業者“楊佳”(当時28歳)が上海市公安局の“閘北(こうほく)分局”を単独で襲撃して、警官6人を殺害、警官5人と保安係1人に重軽傷を負わせた。上海市内で登録証の貼っていない自転車に乗っていた楊佳は、警官の職務質問に応じなかったために、連行されて激しい暴行を受けた。後に、自転車は借り物であったことが判明したが、公安局は謝罪しなかったことから、楊佳は公安局ビルを襲撃した事件。楊佳は死刑となったが、人々から忌み嫌われる警官を多数殺害したとして英雄視され、北京市内にある彼の墓には今なお参拝者が絶えない。

【2】2015年2月、河北省“石家荘市”の“長安区”に属する“北高営村”の若者“賈敬龍”が中国共産党北高営村支部書記の“何建華”を春節祝賀会の会場で改造した釘打ち機で殺害した。これは、何建華の指示により改築した新婚住宅を理不尽に取り壊され、結婚も断念させられてすべての夢を打ち壊された賈敬龍が行った報復殺人だった。世論は賈敬龍に味方し、一審で死刑判決が出た後、判決の見直しを求める声が高まったが、二審は一審判決を支持し、2016年11月に賈敬龍の死刑は執行された。<注3>

<注3>この事件の詳細は、2016年10月28日付の本リポート「横暴な権力者を殺害した男の死刑は止められるか」参照。

 彼ら2人が犯行に走らざるを得なかったような状況が根絶されれば、中国社会は安定の方向へ舵を切ったことになる。掃除通知の発行によってスタートした「暴力団一掃と悪人除去」運動が、中国社会に根付く病根を取り除くことに成功し、習近平政権が求める社会の安定をもたらすことができれば、中国の夢が実現する可能性は見えてこようが、これは一朝一夕にできることではない。世界のどこの国や地域にも黒悪勢力は存在するし、黒悪勢力の掃除に成功した国は恐らくどこにもないだろう。ただ一つ確実なことは、習近平は反腐敗運動の推進によって多数の敵を作ったが、今回の「暴力団一掃と悪人除去」運動によってさらに新たな敵を増やすということである。