「国防」より「治安維持」
自らの手で中国の夢を実現したいと念願する習近平が最も恐れているのは、中国の歴代王朝のほとんどが民衆の蜂起によって滅亡しているという事実である。そこで、中国政府“財政部”の「全国財政決算・予算資料」で、2016年における中国の国防費と“公共安全費(治安維持費)”の金額を調べてみると、以下の通りであった。
【2016年】 | |
(国防費) | 中央:9546億元+地方: 220億元= 9766億元 (約16.6兆円) |
(治安維持費) | 中央:1742億元+地方:9290億元=11032億元 (約18.8兆円) |
公表される中国の国防費には研究開発費などの各種経費が含まれていないと言われているので、国防費の実質的規模は不明だが、少なくとも公表されている資料で見る限りでは、治安維持費が国防費を上回っているのである。この現象は2011年から始まったものであり、関係資料はまだ公表されていないが、恐らく2017年も継続しているはずである。<注1>
治安維持費が国防費を上回るのはなぜか。それは、中国社会が多くの問題を抱えて不安定だからであり、治安維持を強化して、不満分子を拘束し、人心の動揺を抑制し、民衆の蜂起を防止しなければならないからである。では、多大な治安維持費を投入しないで済むようにするにはどうすれば良いのか。それは、中国国民が中国共産党の統治に不満をいだくことがないように社会を安定させることであり、そのためには中国社会に根付く病根を取り除くことが先決である。
こうした発想から「トラ退治とハエ駆除」運動に続いて打ち出されたのが、2018年1月に中国共産党中央委員会と中国政府“国務院”から出された『“掃黒”・“除悪”特別闘争の展開に関する通知』(以下「掃除通知」)による新たな運動であった。“掃黒”とは“黒社会(暴力団)”を一掃することを意味し、“除悪”は悪人を除去することを意味するから、これは「暴力団一掃と悪人除去」運動と言うことができる。
ところが、報道を通じて掃除通知が出されたことは分かったが、その“掃黒”・“除悪”の対象が何かは具体的には示されていなかった。このため、中国の庶民は掃除通知の鉾先がどこに向けられているのか議論を戦わせていたのだった。
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