2009年当時、北京郊外のリサイクルセンターで約30元相当のリサイクル可能なゴミの袋をトラックに積む準備をする作業員(写真:ロイター/アフロ)
2009年当時、北京郊外のリサイクルセンターで約30元相当のリサイクル可能なゴミの袋をトラックに積む準備をする作業員(写真:ロイター/アフロ)

 2月3日付の全国紙「中国青年報」は、『北京“拾荒者江湖(くず拾い渡世)”』と題する特集記事を掲載した。中国語で“拾荒者”とは「くず拾い」を意味し、ごみ捨て場から金属やガラス、プラスチックなどの再生可能な廃品を回収することで生活している人たちを指す。中国語の百科サイトである『百度百科』には、“拾荒者”について次のような説明がなされている。

 誰もが知っているように、くず拾いの仕事、生活、住居などの環境は非常に劣悪である。それにもかかわらず、多数の同郷の農民たちが都市部に出てくず拾いの群れに加わるのは、基本的生活のためであり、子女の教育のためであり、故郷では実現不能な金持ちになる夢のためである。くず拾いは特殊な環境にあるので、毎日汚い、臭い、劣った、腐った物に触れているが、それが彼らの身なりや衛生、行動の習慣を決定付けている。これはどうしようもない悪しき習慣ということができる。ところが、争うことができないのは、中国にはくず拾いが多過ぎるほどいるという事実である。一例を挙げれば、陝西省“西安市”の都市部には、政府発表の数字でくず拾いが約3万人いる。西安市は中国西部地区の大都市の一つに数えられるが、中国には34の一級行政区<注1>があり、大都市は少なくとも100以上あるから、くず拾いの数は驚くべきものになる。初歩的な推定で、全国には600万人以上のくず拾いが存在する。

<注1>台湾を含む23省、5自治区、4直轄市、2特別自治区(香港、マカオ)。

千葉県の人口に匹敵

 中国の総人口13億6782万人(2014年末)から見れば、600万人という数字は、わずか0.44%に過ぎないが、日本で言えば、都道府県別人口で第6位の千葉県(約621万人)に匹敵する。それほど多数の人々がくず拾いをして生活しているというのだが、その実態はどうなのか。中国青年報が2月3日に報じた記事の概要は以下の通り。

【1】北京市の“市政市容管理委員会(別名:“首都城市環境建設委員会辨公室”)”の“副総工程士(副技師長)”である“王維平”は、長年にわたってくず拾いの人々と付き合って来た。彼の調査によれば、北京市におけるくず拾いの人口は優に15万人を超え、いくつかのグループに分かれ、市内80か所以上の場所に分布している。また、彼らの大多数は、同郷者による集合体で、各グループが持つ利益領域を分割しているのだという。

【2】王維平によれば、最初に北京でくず拾いを始めたのは、“四川人(四川省出身者)”だった。1987年のある日、1人の四川省“巴中市”出身の男が政府部門発行の文書を持って彼の事務室を訪れ、「ごみの埋立処分場」(以下「埋立処分場」)でくず拾いをさせて欲しいと申し出た。当時、王維平は“北京市環境衛生管理局”で埋立処分場の管理を担当していたが、ごみの収集、輸送、処理という工程を経ると、ごみ1トン当たりの経費は157元(約2800円)もかかり、カネがかかるだけでなく、手間もかかっていた。このため、自らくず拾いをやりたいという奇特な人が現れたので、渡りに船とばかりに、その場で王維平はこの申し出を承諾した。その時の気持ちは、「彼らがくずを少しでも多く拾ってくれれば、我々は手間が省ける」というものだったという。

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