上記から分かることは、JYPが事件の責任を全て周子瑜に押し付け、彼女を犠牲にすることで事件を引き起こした責任を免れようとしていることである。台湾と中国の複雑な関係に思いを至らせることなく、何も考えずに、周子瑜に青天白日満地紅旗を持たせたのは、他ならぬJYPのスタッフだったはずだが、厚顔にも周子瑜の教育を怠ったことに原因があったと述べるに至っては、開いた口が塞がらない。

飛行機でバイクで高速鉄道で急遽、投票へ

 さて、周子瑜の動画を知って怒ったのは台湾の人々であった。韓国のテレビ番組で台湾出身の周子瑜が祖国である中華民国の青天白日満地紅旗を手にすることが、どうしていけないことなのか。番組で周子瑜に青天白日満地紅旗を持たせたのはJYPのスタッフであるはずなのに、わずか16歳の周子瑜に全ての責任を負わせ、「中国はただ1つ」と言わしめた謝罪動画をYouTubeで配信するとは、周子瑜がかわいそうなだけでなく、台湾および台湾人を侮蔑した行為であると考えたのである。これは台湾の人々のナショナリズムを強く刺激した。

 本来ならば16日のダブル選挙には行かない積りだった人々が、周子瑜の動画を知って勇んで投票所へ駆けつけたのだった。彼らは誰もが中国と一線を画する民進党に投票した。

 日本に留学中のある学生は、動画を知ると早朝5時50分発の飛行機に飛び乗り“台北市”へ戻って投票を行ったという。また、台北市内に住む若者は、動画を見ると即座にオートバイで南部の実家へ向かい、本来予定していなかった投票を行った。台北市内の某氏は動画を知ると、投票するために実家のある“金門県”<注2>へ帰ろうとしたが、台北市からの飛行機チケットが取れなかったので、高速鉄道で南部の“高雄市”へ移動し、高雄市から飛行機で金門県へ帰り投票を行った。

<注2>中国福建省“厦門(アモイ)市”の対岸に所在し、台湾が管轄する金門島。台湾の行政区分では福建省金門県。

 これらは代表的な例に過ぎない。周子瑜の動画に関するニュースを知って、当初は投票を予定していなかったにもかかわらず、急きょ投票に出向いた人たちが、台湾全土にどれほどいたのかは分からない。しかし、それが民進党の勝利に大きく貢献したことは否めない事実のようである。

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