太鋼集団が“球珠(ボール)”を生産するための“筆尖鋼(チップ用スチール)”の国産化に成功したことは、中国メディアによって大きく報じられ、李克強が提起したボールペン問題は解決を見たと、中国社会は喜びに沸き返った。ところが、中国人民放送局のウエブサイト「“央広網(ネット)”」は1月15日付の「チップ用スチール開発成功に大手筆記具製造企業は冷水を浴びせる」と題する記事を掲載したのだった。その概要は以下の通り。

川下企業は?市場は?

(1)中国最大の筆記具製造企業である“貝発集団(Beifa Group)のトップである“邱智銘”は、チップ用スチールが国産化されたことは結構なことだが、川下の企業がそれについて行けなければ、せっかくの研究開発も宝の持ち腐れになると、中国国内の現状を喝破した。

(2)貝発集団の“筆頭(チップ)”生産工場の中では、設備が高速で運転され、切断、研磨、鑽孔など18の工程を経て、直径3mm以下のステンレス製ボールが生産されている。チップの品質を決定するのは、生産設備のみならず、最も重要なのは材料である。同集団の材料切断は2~3万回転の高速設備で行われるので、材料が硬くてもダメでし、軟らかければ変形する。従い、国産のチップ用スチールを川下企業が的確に使いこなせるかどうかが課題である。

(3)邱智銘は感慨深げに次のように述べた。「以前我々が世界各企業のODM(Original Design Manufacturing)生産工場であった時は、委託者からチップはスイス、インクはドイツ、あれは日本と指定を受けて10数年を過ごした。今はそれと全く異なり、自分のブランドで勝負し、それが中国の良い筆記具の基準となっている。我々は外国企業を引き込み、外国企業を研究して、最後に外国企業を超越した」

(4)しかし、長年にわたって中国筆記具製造協会の副理事長でもある邱智銘は、次のように述べてチップ用スチール開発の喜びに沸く国内業界に冷水を浴びせることを忘れなかった。すなわち、国内国外を問わず、“中国製造(Made in China)”は非常に長い期間“廉価”、“低品質”の烙印を押されて来た。たとえ材料が良くても、市場が無ければ始まらない。大綱集団の溶鉱炉が5000トンから1万トンのチップ用スチールを生産することができ、我々筆記具製造企業がそれを使ってボールペンを生産したとしても、市場はそれほど大きいだろうか、また、企業は採算が取れるだろうか。

 太鋼集団がチップ用スチールの国産化に成功したことは事実だろうが、果たして川下の企業がそれについて行けるのか、また、同スチールの品質が各企業の設備に十分対応するものなのか。李克強のボールペン問題の懸案事項は表面上解決できたことになるが、それが一朝一夕に“球珠(ボール)”の輸入阻止につながるとは思えない。

 ところで、中国が生産できない、あるいは生産できても品質不良の製品は極めて多い。このため、多くの中国人は海外旅行の機会をとらえて、国外でブランドバッグ、化粧品、衣類、家電などを購入する。日本では中国人観光客が、電気釜、温水洗浄便座、紙おしめ、医薬品、サプリメント、日用品などを大量に買い漁ったことから、旺盛な購買を意味する「爆買い」が2015年の新語・流行語大賞を受賞した。しかし、2016年4月に中国税関が海外で購入した商品に対する関税率を突然引き上げたことから、中国人観光客の購買意欲は沈静化し、爆買いは失速して今日に至っている。

 上述したように爆買いの主因は、中国国内で生産不能、あるいは国産品の品質不良である。一般的に中国の製造業が低品質の製品を主体に生産しているのに対して、輸入品はコストが高いことにより高価格で庶民には手が出ない。その間隙を縫って出現したのが正規品を模造した“山寨品(偽物商品)”で、中国国内に氾濫しただけでなく、遠く海外にまで輸出された。この結果は火を見るよりも明らかで、ただでさえも低級品とされていた中国製造(Made in China)の名誉をさらにおとしめた。こうした中国製造に対する評価は中国国内に跳ね返り、中国国民の外国製品に対する信仰を高める結果となったのだった。

 李克強が提起したボールペン問題から見えてくるのは、闇雲に国産品を開発して輸入依存の製品を抑制するのは意味がないということである。それよりも、中国企業が自社製品の品質向上に努力し、目先の利益だけを考えることなく、「匠の精神」を持つ技術者を養成し、国民に信用される高品質で耐久性のある製品を製造することが先決ということではないだろうか。但し、「悪貨は良貨を駆逐する」のことわざ通り、それが極めて困難であることは中国が一番良く知っているはずである。