ソフトウエア記述の前に業務改善が必要

 ソフトウエアを記述する前にすべきこととは業務とソフトウエアの設計である。コンピュータを動かして情報を処理し、その情報を業務で使っていくから、どのように業務を進めるのか、それをまず決めないといけない。現状の業務を変えずにコンピュータを導入してもさほどの効果は出ないので業務の改善を先に考える。

 厄介なのは改善後の業務はまだ存在しないため、眼に見えないことだ。見えないからと言って改善後の業務を曖昧にしたままソフトウエアを記述してしまうと、実際にコンピュータを動かした際、業務をうまく進められなくなる。結果としてコンピュータの利用を放棄してしまう。

 業務を眼に見えるようにし、改善案を検討し、あるべき業務を設計するための手法は考案されている。業務の流れやそこで使われる情報に着目し、モデルを作る。モデルを見て、改善案を練る。ところが、関係者がモデリングの手法を学んだとしても、業務改善という見えないものに挑まず、ソフトウエアの記述を急ぐ傾向があり、業務とソフトウエアの齟齬はなかなか解消しない。

 動かないコンピュータを招く理由としてもう一点、ソフトウエアの肥大化が挙げられる。記述したソフトウエアを業務の変更に応じて書き直していると行数が増えていく。自社にどのぐらいのソフトウエアがあり、それがどのような役割を担っているのか、把握しにくくなる。その状態で業務改革を進めたり、ソフトウエアを記述あるいは書き直したりするのは難しい。

 ソフトウエア問題に対処すべくエンタープライズアーキテクチャという手法が提唱された。企業の内外にある事業とそのための業務、使う情報とソフトウエア、それを動かすコンピュータの現状を棚卸しし、将来像を描き、そこに到る道筋を整理する。いわば都市計画作りである。企業が保有するソフトウエア群を一望するアプリケーションポートフォリオという手法もある。ただしどちらも日本で普及し、定着したとは言い難い。

見えないものを扱う手法もよく見えない

 20年ほどコンピュータ関連の記者を続けた後、2004年から筆者は当時話題になっていたMOT(マネジメントオブテクノロジー)の新雑誌を作る仕事を手がけた。ここで言うMOTは、様々なテクノロジーをうまく使いこなし、新製品や新事業を創出することを指す。イノベーションと言い換えてもよい。

 電機を始めとする製造業各社の経営企画部門や研究開発部門など筆者がほとんど取材したことがなかった所にお邪魔し、話を聞いた。業務改善のためにソフトウエアを記述する仕事もテクノロジーのマネジメントだと言えなくもないがMOTの中では周辺の話になる。

 取材を基に編集陣でMOTをどう報じていくべきか議論し、2004年7月に出版した日経ビズテック第1号の巻頭に『今なぜMOTか』という一文を書いた。「見えないものに挑む」という言葉はこの中で使った。該当箇所を再掲する。用語の一部を改めている。

 1年あまりかけて、企業経営者や事業責任者、技術者、MOTの研究者など多数の方々と議論を重ね、「MOTの意味」「イノベーションの鍵」を追求してきた。その結論を書く。

  • 次の2点の両立がMOTである
  • 自由な発想で新しいものを描く「デザイン」
  • 多彩な人材を生かしてデザインにそった成果物をきちんと作る「マネジメント」

「見えないもの」に挑む

 ここでいうデザインで重要なのは「見えないものを描く力」である。日本企業が非常に苦手とするところだ。先の調査結果で関心事の上位に入っていた「ビジネスモデル(利益を上げる仕組み)」は見えないものの典型といえる。新製品の「コンセプト」や「ブランド」もそうだ。

 「先の調査」は新雑誌を作る準備の一環として実施した。事業と技術の融合に関心を持つ方々をインターネット上で募集、質問用紙を郵送した。回答者は企業経営者や管理職、技術者など617人。「関心を持っているテーマ」の1位は「MOT」(選択した回答者の割合は57.7%)、2位は「プロジェクトの成功・失敗事例」(55.8%)、3位は「プロジェクトマネジメント」(53.6%)、「ビジネスモデル」(52%)だった。