(写真撮影=菊池くらげ、以下同)

 「我々の調査によると、全世界のプロジェクトにおける損失額の合計は年間2兆ドルに達する。プロジェクトの失敗は戦略に拠るところが大きいにもかかわらず、トップエグゼクティブは事の重大さは認識しているものの、多くは現場の問題だとみている」

 プロジェクトマネジメントのプロフェッショナル団体、PMI(プロジェクトマネジメントインスティチュート)のマーク・A・ラングレー プレジデント兼CEOはこう指摘する。

 プロジェクトとは新事業、製品、情報システムの開発、組織の新設や合併、イベントの開催など、期限があり、通常業務のような繰り返しの無い活動のこと。プロジェクトマネジメントは与えられた期限とコストを守り、価値を生む成果を出す取り組みを指す。

 全世界に53万人強の会員を擁するPMIはプロジェクトマネジメントに不可欠のナレッジをまとめたガイドブックの発行、プロジェクトマネジャの資格試験やトレーニング、プロジェクトマネジメントに関わる調査などを手がけている。プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)の有資格者は86万人という。

 「プロジェクトマネジメントは経営者にとってどういう意味があるか」というテーマでラングレー氏に話を聞いた。

Mark A. Langley
2002年にProject Management Institute (PMI)に参加。2010年からPMIのプレジデント兼CEO(最高経営責任者)。PMIに参加以前は ChemLogix でCFO(最高財務責任者)を務めた。セント・ジョゼフズ大学を卒業後、プライスウォーターハウスでCPA(公認会計士)として仕事を始め、複数の企業で管理職を歴任した。

2027年、8770万人がプロジェクトに関わる

プロジェクトの損失額が依然として大きいのはプロジェクトマネジメントの効果がないということか。

 調査結果によるとプロジェクトの結果、無駄になる金額はこの5年間で減ってきている。プロジェクトマネジメントに長けた組織とそうではない組織を比べると、前者の損失額は後者の21分の1だった。プロジェクトマネジメントの効果はあるわけだが、それでも平均するとプロジェクトの投資額に対し、9.9%が無駄になっている。全世界で見ると、ざっと1日50億ドル、年間2兆ドルが無駄に使われており、大変な損失だ。

 なかなかうまくいかないのはプロジェクト自体が複雑になっていることが大きい。よく言われるように、デジタルテクノロジーによるディスラプション(破壊)に対処するため、組織は変革を迫られており、そのために今まで経験がないプロジェクトに乗り出している。

 NPO(非営利団体)である我々PMIにも破壊が押し寄せている。私の課題は、破壊に直面する中で3~5年後の未来を見据え、PMIの価値をどのように創出していくのかを検討し、戦略をリフレッシュし、実行すること。戦略を進めるために組織自体を変革、あるいは破壊しようと試みている。先例がないので、自分たちで考え、実行していくしかない。もっともこの挑戦は非常な楽しみでもある。

 企業や団体のトップに会って話をすると今や誰もが破壊と変革について語る。戦略を立て、実行するために、プロジェクトやプロジェクトの集合であるプログラムの件数は増える。我々の調査によれば、これから2027年までに、プロジェクトに従事する人が8770万人、必要になる。

 この調査は世界11カ国で各業界について見込まれる成長を調べ、高齢者が仕事から離れる数を勘案し、プロジェクトに関わる人数を割り出したものだ。日本は世界で第4位、40万人の新たな役割が生まれるという調査結果になった。日本は世界で最も早いスピードで高齢化が進んでいるから、次世代のリーダーを決め、プロジェクトマネジメントのトレーニングをすることが求められる。

トップはプロジェクトマネジメントに理解を

複雑なプロジェクトが増え、しかも人が足りない。どうしたらよいか。

 なによりもまず、組織のトップエグゼクティブはプロジェクトマネジメントをもっと理解してほしい。なぜ失敗するのかというと、成功させるために必要な実行力がないからだ。実行力とはすなわちプロジェクトマネジメントの力である。組織の上位層が戦略の策定から実行までを関連付けて考えなければならない。

 我々はエグゼクティブを対象にした調査も実施している。それによると回答者の88%にあたるCEOやエグゼクティブが、戦略実行の重要性を認識していた。だが61%が戦略をうまく実行できていないと回答した。

 うまくいかない理由を聞いてみると、戦略の問題だと解答したエグゼクティブは17%しかいなかった。つまり、残りの83%はプロジェクトがうまくいかないのは、オペレーションやテクノロジーなど現場の問題だと感じていることになる。果たしてそうだろうか。

 プロジェクトマネジメントに長けた組織とそうではない組織に差が出ていたとお話しした。両者のやり方を比較してみると、次の3点に大きな違いがみられた。スポンサーシップ、スコープマネジメント、組織の成熟度である。これら3点は現場だけでは改善できない。トップエグゼクティブが手を打つ必要がある。

 1点目のスポンサーシップとは、プロジェクトに投資をしたトップや事業責任者、すなわちスポンサーがプロジェクトマネジャやプロジェクトチームとしっかりした関係を築くことを指す。スポンサーシップが弱いとプロジェクトはうまくいかない。

 私はプロジェクトマネジャに会うたびに、「いいスポンサーを見つけよう」と助言している。エグゼクティブ自身もよいスポンサーを目指してほしい。第一歩はスポンサーであることを自覚し、プロジェクトにもっと時間を割くことだ。