技術者をプロジェクトマネジャーに

 情報システムの開発を請け負う企業の創業経営者と雑談した際、上記のやりとりをした。彼は長年、情報システムの開発とプロジェクトマネジメントを手がけてきたベテラン技術者で、10年前に独立し、起業した。

 少数精鋭主義をとっており、彼の眼鏡にかなう優秀な技術者だけを雇い、プロジェクトマネジャーに育て上げる。創業当初から黒字経営を続けており、手がけた開発プロジェクトで失敗はないという。

 同社の技術者はIT(情報技術)にとどまらず、プロジェクトを企画、実施していくマネジメントの経験も積んでいる。成果物をつくって納めるだけではなく、顧客との関係を築き、維持していくことも仕事の一部になっている。

 顧客といっても経営陣や事業部門責任者、現場の担当者など多数の人がいる。技術者は彼らと接触を繰り返し、まだ形になっていない要望を探り出し、誰がどういう権限を持っているか、誰と誰の関係が深い、といったことも把握していく。

「私はつくるだけ」と言われても

 このように同社は受注活動も顧客とのやり取りも技術者が担当する。一般には営業担当者が顧客と交渉して売る人、技術者はそれを受けてつくる人、という役割分担が多いが、技術者が「売るのは営業、私はつくるだけ」という姿勢ではうまくいかなくなっている。

 使うテクノロジーの種類が増え、製品や情報システムだけではなく納入後のサービスまで含めて提供するなど、成果物が複雑になってきているためだ。技術者が今まで以上に前に出て、顧客とやり取りすることが求められている。

 顧客からしても技術者が前に出てきてくれるのは有り難い。テクノロジーをあまり勉強していない営業担当者と対話を強いられた後、「発注金額の中に彼の人件費まで入っているのか」とぼやきたくなる。

 とはいえ顧客は価格交渉や契約まで技術者とやりたいと思わない。「技術者は自分の売り上げや利益よりも当社と技術のことを考えて提案してくれる」という期待がある。

 顧客とのやり取りの大半は技術者に任せながらも、価格を含む契約締結を営業事務が担当するやり方は、テクノロジー企業における技術者と営業担当者の役割分担の新しい姿の一つと言える。

誰が何を担当するか

 ただし同社のやり方は「技術者の地位をもっと高めたい」という創業社長の信念に基づいており、どの企業でも採用できるわけではない。

 客先に行きたがらない技術者はいる。そもそも技術者は地方の工場に集められており、顧客とのやり取りは東京本社にいる営業担当者に一任されている企業も少なくない。

 こうした従来型のテクノロジー企業においては、売り上げと利益の責任を誰が持つのか、顧客の要望を技術者にどう伝えるのか、収支を誰がどう合わせるのか、といった古くて新しい問題がつきまとう。簡単ではないが、誰が何に責任を持ち、どのように活動するのか、見直すことが欠かせない。

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