まず、現場の実務担当者がビジネスに出てくる「もの」と「こと」を見出します。次にものとことを示すデータの状態や性質とデータ同士の関係を、担当者が日常使っている言葉で表現していきます。こうして描いた全体像を「データモデル」と呼びます。

 手島氏の長年の経験によると、データモデルを描く過程で実務担当者が業務改革すなわち生産性向上策の構想を得ることが多いそうです。なぜなら普段使っている言葉の背後にあり、様々な部門の人々がなんとなく気付いていた、あるいは意識していなかったビジネスの本質がモデルを通して明確になり、関係者全員が共有できるようになるからです。

 構想が閃いたら業務改革の案をいくつか用意し、妥当性を評価します。改革の構想と経営者や事業部門責任者の要請を見比べ、優先順位の高い案から着手します。改革に必要であるなら新しい業務アプリケーションソフトを用意します。

 ビジネスの仕組みの中で使うデータをすでに考えてあるわけですから、そのデータを入手する具体策として業務アプリケーションを設計するだけで済みます。データモデルの構造に合わせて業務アプリケーションをできるだけ小さな単位に分けておくと、個々のアプリケーションを短期間で用意でき、都市再開発のようにプロジェクトを次々に実施し、情報システム全体を常に変えていけます。

「EA」は終わっていない

 片仮名が並んで恐縮ですがデータモデルはすなわちデータアーキテクチャ(データの設計様式)であります。

 中野課長が挨拶をされたシンポジウムOpen Summit2018で発表された知恵は「エンタープライズアーキテクチャ(EA)」でした。オープンな技術標準の策定や認証を手がける非営利団体The Open Groupが提供しているEAの手法「TOGAF」を使った事例が複数語られました。

 EAはビジネス、データ、アプリケーション、IT基盤のそれぞれのアーキテクチャ(設計様式)を用意する手法です。ひょっとすると経産省にとってEAはもう終わった、触れたくない話かもしれません。かつて経産省そして弊社を含むメディアがEAの旗を振りましたが日本に根付かないまま今日に至っています。

 EAをきちんと実践している企業はあります。日産自動車でCIO(チーフインフォメーションオフィサー)を務めてきた行徳セルソ氏(現・監査役)は4月4日のシンポジウムで「日産に着任した当初からトランスフォーメーション(変革)のためにEAは必須だと考えていました」と話されました。

 日産はTOGAFを使いつつ、ビジネスプロセスのモデルを描いたり、メタデータマネジメント(データを分類するデータを決め、データ全体を可視化すること)を始めたり、業務アプリケーションのポートフォリオをつくって最適化したり、といった活動を10年間にわたって進めてきたとのことです。

 シンポジウムのために来日したThe Open GroupのCEO(最高経営責任者)、スティーブ・ナン氏は「トランスフォーメーションはジャーニー(旅)」と語っていました。「オープン標準の手法であるTOGAFを使って、旅で目指すゴールを見定め、同行するメンバーを巻き込み、歩んでいこう」というわけです。

 さらにThe Open Group日本代表の藤枝純教氏(グローバル情報社会研究所代表)は「IoTでこれまでとれなかったデータがとれるようになる。経営や事業において何のためにどういうデータをどう使うのか、EAを描いて整理しておかないといけない」と指摘していました。