期限が迫る。成果物を仕上げられるのか。品質は大丈夫か。担当者は疑心暗鬼になり、人によっては気持ちが高ぶり、横になっても眠れなくなる。これは心身ともに危険な状態であり、ついには現場に行けなくなり、あるいは入院し、プロジェクトから離脱する人が出てくる。

 その替わりを務める人を探し出し、プロジェクトに投入していく。終いには「誰でもよいから人を出してくれ。金は出す」という状況に陥りかねない。あまりの残業時間に驚き、「このような仕事を続けられない」と断って、要員を引き上げる協力会社も出てくる。またしても替わりを探さなければならない。

 昨年11月公開の託送業務システムに関する拙文で筆者は「今、現場の技術者たちは過労と緊張の極にある」と書いたが、読み返すと適切な表現ではなかった。託送業務プロジェクトは当初から混乱しており、「過労と緊張」はずっと続いている。しかも年末からこの3月末にかけて「過労と緊張」の度合いは増している。ずっと続いてさらに増すのであれば、それは極ではない。

 こうした状況下で開発を続行できているのは2000人の要所にいるマネジャ陣の頑張りであろうか。倒れかねない現場の担当者に声をかけ、相談に乗る。といっても筆者が想像できる台詞は「とにかく頑張ろう」「4月まであとわずかだ」などである。

 「頑張れ」と言い続けるマネジャの心が折れる危険もある。そうならないようにマネジャの上司も「頑張れ」と言い続ける。上司が参ってしまってはいけないから上司の上司も同じことを言う。開発を続行しているところを見ると三菱電機の経営陣や上級幹部はくじけていない。

 もっとも東京電力から報告を受けた経済産業省が「何か対応を変えなければいけないという状況にはなっていない」と見ている以上、三菱電機としては続けるしかないとも言える。

 現場の技術者は自分自身を律し、生き残らなければならない。厳しい状況に追い込まれたとき、どうすれば心折れないようにできるのか。ITproというサイトに 『死の行進」から生還するための心得』 と題した一文を公開したので、生き残りに関心がある方は見ていただきたい。

4月に動かしても一件落着するわけではない

 「量を減らす」「チームで動く」「やり方を変える」「士気を保つ」、これら4点を実施できていれば奇跡を起こし、4月からの電力小売り自由化に間に合うように託送業務システムを動かせるかもしれない。

 だが、動かして一件落着するわけではなく、品質の問題が残る。まず、新しい情報システムを動かした直後は経済産業省幹部が指摘する通り「トラブルもあり得る」。これについては起きる可能性があるトラブルを予想し、起きた時の備えをあらかじめしておくことになる。

 情報システムの開発が大詰めに来たとき、「トラブルへの備えをしておくなどけしからん。万全の状態にしてから動かせ」と無理を言う人が出てくることが時折あるが、託送業務システムの場合、経済産業省がよく分かっているようなので大丈夫であろう。

 当初のトラブルを乗り切ったからと言って品質の問題が片づくわけではない。もともとの設計に歪みがあり、品質をなかなか高められない懸念がある。昨年11月の本欄に筆者は次のように書いた。

 「情報システムの開発にあたって何よりも大切なことは設計(デザイン)である。業務、それに関わる関係者の状況、既存の情報システムなどを俯瞰し、作り上げる業務と情報システムの全体像をはっきりさせてから細部を描いていく。全体像が曖昧なまま、『こういう風にしてくれ』といった個別の要求を満たそうとすると業務も情報システムも歪んでしまい、うまくいかない」

 しかも前述したように「期限に間に合わせるために、いくつかの機能の完成を先に延ばしたはずである」から、その機能を開発しなければならない。そして今後、電力小売り自由化の制度改定があるたびに託送業務システムを修整することになる。

 こう考えると2000人全員が残ることはないだろうが、1000数百人は4月以降も現場に留まり、託送業務システムの開発と手直しを続ける必要があるのではないか。

 経済産業省、東京電力、三菱電機のリーダーたちは4月以降どうしていくか、今から考えているだろう。現場は3月末まで託送業務システムの最終テストと調整に没頭しており、先のことは考えられない。

 11月の本欄の最後に書いた一文を繰り返して締めくくりにする。3者のリーダーの方々へのお願いである。「技術者たちの健康に迷惑がかかることはあってはならないとの考えのもと最大限努力してほしい」。