東京電力は三菱電機、東芝、NTTデータが請け負っているシステムのそれぞれについて進行状況を管理し、出来上がってきたシステムをテストし、所定の機能が備わっているかどうかを確認する。東京電力の社員だけでこの工程をこなしきれないので、コンサルティング企業やIT企業から要員を借り、要所に配置している。例えばMDMSや検針値管理の開発とは別に、託送業務システムに関わる品質管理や進捗管理の支援、テスト支援などをNTTデータの技術者に頼んでいる。

 一説によると託送業務システムだけで、開発に動員されている技術者の数は2000人に迫る。2000人は複数の会社から様々な契約によって集められている。入れ替わりもしばしば起こる。こうした状況の中で未経験の電力小売り自由化に向けた情報システムを開発しなければならない。

 前回の本欄で筆者は主要な組織と企業から「この人が決めたらそれで決まり」といった意思決定を下せるリーダーを出し、チームをつくって取り組むべきだと書いたが、関係者によれば「経済産業省は東京電力にしかるべき人材を送っている。東京電力と三菱電機の幹部が参加し、意思決定をしていくステアリングコミッティもある」という。

 こうしたリーダーたちが信頼関係を築き、うまく連携して、しかるべき判断を下し、電力自由化に関わる関係者に必要な説明をしつつ、開発に関わるIT企業の技術者に的確な指示を出していければ奇跡を起こせるかもしれない。

昔からのやり方を変える

 情報システムの開発がうまく行かないのは当然ながらやり方に問題があったからである。そのやり方を変えない限り、開発プロジェクトを立て直すことは難しい。

 開発の進捗が予定より遅れていることが分かったらどうすべきか。なぜ遅れているのか、その真因を探り、やり方を見直して遅れを取り戻す案を考え、所定の準備をしてからその案を実行していく。それをせずに「今すぐ遅れを取り戻せ」と言って技術者を増員させたり彼らの残業時間を伸ばしたりしても混乱を広げるだけに終わる。

 前述したように託送業務システムの開発プロジェクトに東京電力は複数のコンサルティング企業やIT企業から調達した要員を配置している。これらの要員は東京電力の立場で活動するから、開発プロジェクトのやり方に改善点があれば、その案を考え、東京電力に進言できるはずである。

 こうした進言がなされ、意思決定を下せるリーダーチームがそれを取り入れ、やり方の改善を決めたので、困難なプロジェクトを続行できているのかもしれない。ただし決定した改善策を現場に徹底するという課題は残る。プロジェクトの先行きに不安を抱いている現場は従来のやり方に固執する傾向があるからだ。

 かなりの改善効果が期待できる一例は東京電力の伝統的な会議作法の簡略化であろう。前回の本欄で紹介したように東京電力では「文書の書式、会議の段取り、意見集約の作法が決まっていて開発会社はそれに従う」。だが今は非常事態であり何か起きるたびに会議を開き書式を整えている余裕はない。

開発者の士気を保つ

 情報システムの開発に限らないが、困難なプロジェクトにおいて犠牲者が出ることがある。その引き金は睡眠不足である。

 プロジェクトには所定の期限があり、それまでに所定の品質の成果物を所定の経費内でつくり上げなければならない。成果物の内容や経費、投入する人員は調整できるが、1日を48時間にすることはできない。

 追い込まれたプロジェクトの担当者はまず移動時間を削る。月曜から週末まで現場の近くに、場合によっては現場の中に泊まり込む。それでも時間が足りない。前述したように例えば会議を減らせばよいのだがそれができない場合、睡眠時間を削る。深夜まで仕事を続け、わずかな仮眠をとり、翌朝から再開する。

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