システム開発やデータの量を減らす

 “KISS”という言葉がある。“Keep it simple ,stupid”あるいは“Keep it short and simple”の略で、とにかく物事を単純にせよ、という意味である。このItをIT(情報技術)と読み替えれば、難航した情報システムの開発プロジェクトを立て直す指針になる。

 開発している情報システムの機能群を見直し、必須の機能をだけを残して、それ以外は削るか、開発を先送りする。情報システムの幹だけを残し、枝葉は刈り込むわけだ。また、simpleやshortというよりsmallとしたほうがよいのであろうが、情報システムで取り扱うデータの量を制限することも有効である。いきなり大量のデータを処理しようとすると情報システムに負荷がかかり、うまく動かなくなる危険がある。

 託送業務システムの開発においては期限に間に合わせるために、いくつかの機能の完成を先に延ばしたはずである。データ量については当初の見込みより少なくて済む可能性がある。

 東京電力は同社の顧客(需要家)2800万軒のうち1000万軒が2016年度にスイッチングをする想定で託送業務システムを開発してきた。電力自由化に際し、顧客先にスマートメーターを設置し、30分ごとに使用電力量を計測、その結果を託送業務システムが受け取り、各小売り事業者へ60分以内に配信する。

 1000万件もの顧客が東京電力以外から電力を買う契約を4月までに結ぶはずはないし、2017年3月末まで見てもこの数字に届くとは思われない。実際のスイッチング件数はずっと少ないだろう。

 さらに全データがスマートメーターから送られてくるわけではない。なぜ30分おきにデータを調べ、送信しなければならないのか筆者はいまだに理解できないが、幸か不幸か、スマートメーターの設置やスマートメーターのデータを集める通信システムの開発も順調とは言えず、東京電力は従来通り、検針員を残すことになりそうだ。30分に1回、顧客宅を訪問してメーターを調べることは不可能だから、託送業務システムに送り込まれるデータ量は想定より減るはずである。

意思疎通を良くし、チームで動く

 情報システムの開発には多くの人が関わる。託送業務システムの場合、上から順に並べると、電力自由化の意思決定者とみなせる首相官邸と経済産業省(資源エネルギー庁)、実際の事業を担う東京電力、新規に電力小売りに参入する企業を含む電気事業者、新設された電力広域的運営推進機関、そして託送業務システムを開発する三菱電機などIT企業各社が関係者となる。

 関係者を巻き込んだ託送業務システムの開発体制について2015年11月25日付の本欄で筆者は次のように指摘した。

 「責任者が曖昧であった。責任者とは開発を進める過程で意思決定をする人を指す。片仮名で書くなら開発案件のガバナンスを担保する体制が無かった」

 「(関係者の)意向や要望を聞き、調整し、業務とシステムの要件を絞り込んでいく。意思決定をして開発を進めるリーダーが不可欠だが見当たらない」

 上記の関係者の並びを見れば分かる通り、託送業務システムのガバナンスを担保する責任を東京電力だけに負わせるのは酷である。

 さらに11月25日付の拙文で筆者は「システム開発を担う東京電力の担当部門と開発会社の体制も悪かった」と指摘した。体制の説明に分かりにくい点があったので改めて述べる。

 東京電力は電力自由化に伴う情報システムを複数用意しなければならず、複数のIT関連企業にそれぞれ発注している。主な委託先は託送業務システムが三菱電機、スマートメーターとそのデータを集める通信システムが東芝、MDMS(メーターデータマネジメントシステム)がNTTデータである。MDMSは託送業務システムとスマートメーターを接続するものだ。

 三菱電機、東芝、NTTデータはそれぞれ、開発要員を他のIT企業から調達したり、一部の開発を再委託したりしている。例えば三菱電機は託送業務システムの一部である検針値管理サブシステムの開発をNTTデータに再委託している。検針値管理の機能を介して、MDMSと託送業務システムを接続するからである。