奇跡という言葉はあっても起きることはない。長年こう考えてきたが、ひょっとするとまもなく目撃できるかもしれない。

 それは電力小売りの全面自由化に伴う情報システムの準備が4月までに整うことである。筆者は間に合わないと考えていたので2015年11月25日付の本欄『2016年4月の電力小売り自由化はできない 情報システムの開発が間に合わない訳』に次のように書いた。

 「2016年4月に予定されている電力小売りの全面自由化はできない。自由化に伴う業務を処理する情報システムの開発が間に合わないからだ。自由化の制度設計と情報システムの開発を2年足らずで済ませようとする日程に無理があった」

全面自由化は無理と判断した理由

 こう決め付けたのは東京電力の「託送業務システム」の開発が難航しており2016年4月までに終わらないと筆者は判断したからだ。送配電事業者が用意する託送業務システムは電力小売り自由化の要であり、電力の使用量や送配電の料金を発電事業者と小売り事業者に伝えるために使われる。

 託送業務システムが難航した理由は「設計が悪い、体制が悪い、対処が悪い」の3点である。3点について11月25日付の拙文で説明した。

 2015年12月の段階で経済産業省資源エネルギー庁と東京電力はこの4月に電力小売りの自由化を始める方針を変えておらず、託送業務システムの開発を請け負っている三菱電機は2016年に入り、テストと調整を続けている。3者が勝算の無いまま突撃しているのではないとすると何らかの目処が立ったことになる。

 にわかには信じられないが3者は託送業務システムにまつわる諸問題に向かい合い、開発プロジェクトを立て直すことに成功しつつあるのかもしれない。

「対応を変えなければいけない状況にはなっていない」

 まずプロジェクトの状況がどうなっているのか振り返ってみる。2015年10月27日に開かれた経済産業省の委員会で東京電力の幹部は次のように述べた。少し長いが議事録から引用する。

 私ども一般送配電事業者の責務は、託送供給事業に必要不可欠な供給者の変更、スイッチングと託送料金計算です。これを必ずできるように社内外の関係者が一丸となって取り組んでいるところでございます。システムの開発は、当初の予定どおり、総合テストに今、入っておりまして、予定どおりに進捗しております。

 しかしながら、開発規模が大きく、具体的な要件の明確化が私どもが想定していたよりも時間がかかったこと、大量のデータの移行を含んでいるということで非常に難度の高いシステム開発で、開発の遅延によりまして必要なサービスを提供できないリスクも抱えていると認識しています。

 来年4月からの小売全面自由化に必要不可欠な託送業務システムを利用しましたサービス提供ができるかどうか、おおよその見極めができますのは、主要な開発工程が完了いたします12月末と考えているところでございます。

(総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会
第1回電力基本政策小委員会における発言)

 発言に出てくる「スイッチング」とは需要家(消費者)が電力小売り事業者との契約を変更することを指す。託送業務システムはスイッチング業務に関わる機能と、使用電力量と託送料金(送配電の料金)を通知する機能に大別できる。