酔いと雰囲気が父と息子の両方を素直にしてくれる

ミツハシ:考えてみると、この相談は一人相談者だけの特殊な事情ではなく、似たような状況にある読者は少なくないかもしれませんね。奥さんに先立たれて、まだ老け込む年齢ではないのに、生きる気力が萎えてしまった一人暮らしの父親を心配する30代、40代の読者は意外と多いんじゃないですか。

シマジ:確かに多いだろうな。これが父と娘なら、父親も娘に亡き妻の面影を見て、いろいろと辛さや淋しさを吐露できるかもしれないし、娘のほうも女特有の優しさで父親の世話を焼けるかもしれない。だが、父と息子というのは難しいだろうな。伊勢丹メンズ館のサロン・ド・シマジの常連客でまるで兄弟のように仲がいい父と息子の二人客がいるんだ。本当に兄弟に見えるくらい父親が若々しくてね。俺がわざと「お兄さんも(弟さんと)同じスパイシーハイボールでよろしいですか」と聞くと、うれしそうな笑顔で「はい」と微笑むんだ。

 あんな父と息子というのは珍しいだろうな。たいてい父と息子の間には緊張関係というか、男としての意地のようなものが働く。特に父親は息子に弱さを見せらないものだし、息子のほうも父親の心の内側に入り込むことを遠慮する。それだけに、サロン・ド・シマジに来る兄弟のような親子を見ていると、こういう関係は素晴らしいなと思えるんだ。

ミツハシ:確かに、私もこの歳になっても、父親への遠慮のようなものはありますね。正面切って父親と真面目な話をするのは照れくさいと言うか……。

シマジ:息子なんてものはそんなものだよ。ここから脱却するには、父と息子でバーに行くといいんじゃないかと思うね。お酒の酔いとバーの持つ雰囲気が、父と息子の両方を素直にしてくれる。そんな雰囲気の中で、男二人が、少しずつ自分の体験を相手に話すことを繰り返していけば、父と息子の間にも友情が芽生えるんじゃないかな。何しろ、半分は同じDNAを持つ相手だからね。

ミツハシ:そんなふうにできたらいいでしょうね。

シマジ:世の中の息子たちの多くは、父親がどんな子供時代を過ごし、どんな夢を抱き、どんな女たちを愛して、仕事の上でのどんな悩みに直面し、いかなる栄光の時間を経験したのか、その多くを知らないまま父親を天国に送ることになるんだ。父親と一緒にバーに行き、それぞれの人生を語る。これは父親が元気なうちにしかできない親孝行の一つだと思うね。

 相談者もぜひそうするといい。昼間は父親を女のいるところに連れて行き、そして夜はオーセンティックなバーで男同士語らう時間を作ってくれ。何しろ、バーカウンターは人生の勉強机だからね。

本記事は、 nikkei BPnet から転載したものです