遊戯三昧の最大の奥義は一人遊び

ミツハシ:「虚無感さま、ようこそ」はいいですね。そう口にしただけで楽になれる気がします。

シマジ:「自分が取るに足らない退屈な人間に思えて、自己嫌悪に陥ります」というのも気にすることはない。誰だって持つ感情だ。世間的には成功者と言われる人間だって「俺は世間でチヤホヤされているほどの才能なんてない退屈な人間だ」と思い悩む。周囲からの期待が大きい分、そういう奴らのほうが自己嫌悪を抱くと厄介なものだ。虚しさと自己嫌悪はセットだろうから、これも無理に追い出そうとせず、一緒に遊んでやればいい。

ミツハシ:相談文を読んだ感じだと、相談者は独身のような印象を受けます。女性一人の暮らしの将来への不安が虚無感の一因になっているのではないでしょうか。

シマジ:それはあるかもしれないね。もちろん、家族がいたって虚無や孤独が襲ってくることはある。一家の大黒柱としての責任を背負いながらの孤独というのもまた厄介なものだ。ただ、相談者が一人暮らしをしているとしたら、一人で自分に向き合う時間というのは確かに虚無感を呼び込みやすいかもしれない。

 俺はね、遊戯三昧の最大の奥義は、一人遊びだと思っているんだ。そのための場所がここ広尾のサロン・ド・シマジ本店だよ。ここには俺の愛するものだけが置いてある。1カ月間ここに篭城して誰とも会えなくても、愛する本とシガーとシングルモルトがあれば退屈しない。正確に言えば、俺が退屈しないように作ったのが、このサロン・ド・シマジの空間だと言っていい。

 先日、NHK交響楽団のコンサートマスターの「まろ」こと篠崎史紀さんが遊びにきて、「ここは何とも居心地が良い」といって8時間も一緒に過ごした。その前、マンガ家の黒鉄ヒロシさんがやって来て「この部屋は私の寝室にそっくりです」と言って感心していた。どうも男というのは、ある年齢に達すると、自分の嗜好と美意識で固めた小さな城に閉じこもる時間に一番幸せを覚えるみたいだ。それを「隠れ家」というんだろう。

 これは一人暮らしの女性も同じじゃないかな。相談者がもし一人暮らしなら、もっと好き勝手に自分の生活空間を自分の色に染めてみてはどうかな。自分の部屋に一人でいることが愉しく仕方ないと思えるようになれば、「自分が取るに足らない退屈な人間」なんて感情にあまり悩まされることもなくなると思うね。