シマジさんの嫉妬のされようも尋常ではありませんね

ミツハシ:その理屈はよく分かりますが、それが通じるかどうかというのは、やはり若菜さんをはじめとして、シマジさんを評価してくれていた上司の存在抜きには語れませんよね。

シマジ:それは間違いないな。どれだけ才能や能力があっても、組織の中で仕事をする以上、引き立ててくれる先輩がいなければ、なかなか芽が出るものではない。俺の場合、編集の神様と呼ばれた本郷保雄専務と若菜さんだ。本郷さんは俺を集英社に入れてくれた大恩人で、入社後もいろいろと目をかけてくれた。

 この本郷さんはシバレン(柴田錬三郎)先生のことが大好きでね。俺がシバレンさんの担当をしていたこともあって、3人でよく飯を食ったんだ。そうすると一晩十数万円かかることもある。そんなときに本郷さんは俺に「若菜くんに電話しておくから、領収書を若菜くんのところに持って行きなさい」と言ってくれてね。それで若菜さんの面識を得たんだ。いつも涼しい顔で高額の領収書を持ってくる新入社員に興味を持ってくれて若菜さんとの付き合いが始まった。俺が相当な無茶をできたのも、会社の実力者2人の後ろ盾があってのことだったのは確かだよ。だけど、こんなことを言ったら、俺のことを嫌う連中にさらに嫉妬されるからね。編集部員時代は、上手に隠していたつもりだ。

ミツハシ:編集の神様と後の社長の2人が後ろ盾というのは強力ですね。

シマジ:それについては笑い話があってね。俺が役員になった後だが、若菜さんからこう言われたことがある。「お前に焼きもちを焼く奴から、シマジなんかを社長にしたら、若菜さんまでクビを切られますよと言われているんだよ。シマジは俺の首を切るらしいな」。そう言って大笑いだよ。

ミツハシ:それは傑作ですね。しかし、シマジさんの嫉妬のされようも尋常ではありませんね。

シマジ:若菜さんにも言われた。「お前、よっぽどあいつらを怖がらせたみたいだな」ってね。確かに怖がらせたんだろうな。俺は、雑誌の編集長になるときに、決まって信頼する部員を引き連れて行き、信頼できない部員はたとえベテランでも他部署に異動させたから、こんな奴が自分の上役になったら、とビクビクしていた人間は多かったはずだ。組織の中の嫉妬のほとんどは、自分がクビになったり、閑職へ追いやられたりすることへの恐怖が根本にあると思うね。