若菜さんの言葉が俺の雑誌つくりに大きな影響を与えた

ミツハシ:どう答えたんですか?

シマジ:「こんな匿名の文書を信じるのか、俺の才能を信じるのか、どっちなのかと社長に訊いてください」とだけ言った。しばらくしたら、当時の若菜常務から「社長から聞いたんだが、怪文書が出回っているそうだな。何で俺のところに相談に来なかったんだ」と言われてね。「こんなことで若菜さんに相談をするほどガキじゃありません。総務部長には、怪文書と俺のどっちを信用するのか社長に訊いてくれと伝えました」とありのままを話したんだ。そうしたら若菜さんはニヤッと笑って「そうか、実は俺も社長から呼ばれたものだから、怪文書とシマジとどっちを信じるんですかと訊いたんだよ。社長は『シマジだ』と言っていたぞ」と教えてくれてね。そのときに若菜さんから言われた言葉が俺の編集長としての雑誌つくりに大きな影響を与えた。

ミツハシ:若菜さんは何と?

シマジ:「シマジ、お前は週プレの編集長として若者の新興宗教の教祖になれ」

ミツハシ:その頃から教祖を目指していたんですね。それにしてもシマジさんはいい上司に恵まれましたね。ところで、怪文書ですが、シマジさんの近くにいた人たちが書いたんでしょうから、内容はあながちデタラメというわけではないですよね。

シマジ:怪文書なんていうのはデタラメじゃあ効き目がないからね。書かれていたのは本当のことばかりだよ。俺が派手に会社のカネを使っていたのは周知の事実だったから、そこを否定するつもりは全くなかった。結局は解釈の問題なんだよ。

 俺が使ったカネは、作家や学者や政治家や経営者といった人たちと親しくなるための生きたカネだ。そうしてネットワークを広げ、面白い企画を考え、読まれる記事やコラムや本を作ってきた。逆に言えば、俺がそれだけのカネを使えたのは、会社が俺ならそれだけのカネを使ってもいいと判断したということなんだ。会社に売り上げと利益をもたらさない社員なら、一晩10万円の接待をした領収書を出しても、会社は受け付けてくれないからね。

ミツハシ:だから、怪文書の内容については何も言わず、「どっちを信じるのか」と訊いた?

シマジ:そういうことだ。もちろん、怪文書というのは、告発する相手がいかに非道徳で会社にダメージを与えているかを書く。だから、俺自身が愉しむために会社のカネを使っているかのように、とにかく針小棒大な表現をしていた。だが、会社のカネを使って社外の人たちと飲み、語り合う時間を俺が愉しんでいたことも真実で、その意味で言えば、俺が会社のカネで遊んでいたというのも嘘ではない。明るい公私混同という奴だ。でも、怪文書の主たちは、俺が自由に会社のカネを使えることも妬んでこんな告発をするんだから、使ったカネについて抗弁しても、奴らのレベルに自分を落とすことにしかならないんだよ。