自分たちの運命を自分たちで握る実感を得られるんじゃないか

ミツハシ:私も子供を育てる環境というのは絶対に田舎のほうがいいと思いますが、でも、編集の仕事はやはり都会に集中していますし、落語を愉しむのも、やはり東京じゃないと。稼ぐこと、そして生活の刺激という面では、なかなか都会暮らしを捨てられないと思います。シマジさんなんか、その最たる人じゃないですか。3~4カ月に一度くらの頻度で一関に戻る分には愉しいでしょうが、ずっと一関では退屈してしまうのではないですか。

シマジ:俺の場合は蓄えがなく、浪費が止まないから、死ぬまで稼がなくてはいけない。そうするとやはり東京ということになるが、もし、十分な蓄えがあって、稼がなくていいなら、一関に戻ると思うね。新幹線を使えば2時間強で東京に行けるから、気になる展覧会やコンサートがあればちょっと足を延ばせばいい。ベースを田舎に置いて、時々東京で刺激を得るというのは最高の生活だと思うな。

 何しろ、一関には、一関一高の我が後輩、正ちゃん(菅原正二氏)が経営する日本一のジャズ喫茶「ベイシー」がある。正ちゃんは早稲田のジャズサークルの出身でね。タモリはサークルの後輩だ。先月なんか「ベイシー」に渡辺貞夫がやってきてライブを開き、滝川クリステルや鈴木京香が聴きにきていた。俺が贔屓にしているバーの「アビエント」も素敵な店だ。そんなに退屈しないと思うね。

ミツハシ:シマジさんがそれほど田舎暮らしを評価するとは正直意外でした。

シマジ:そうか? 相談者の30歳女性の「東北の地に行く決心がつきません」という相談文を読んで、もったいないと思ったんだよ。東京の会社に勤めて9年目ということだから、仕事の経験も積み、いろいろと面白い頃だろうとは思うが、同じように東京の会社に勤めるサラリーマンと結婚したとすると、この後の生活というのはだいたい見えてしまうんじゃないか。都心の会社に通いながら、子供の保育園の送り迎えをし、小さなマンションに30年近くローンを払い、子供をどこの学校に通わせるかで頭を悩ませる。もしかしたら、夫や自分の勤務先が左前になってしまうこともあるかもしれない。

 だが、彼氏の実家は何がしかの家業を持っているそうだから、それを若夫婦として守り立てていけば、東京での仕事の経験も生かせるし、何より自分たちの運命を自分たちで握る実感を得られるんじゃないか。相談者は東京での仕事の経験を生かして、彼の地元で職を得てもいい。あるいは、まだ復興途上の東北なら、NPOやボランティア的な仕事はいくらでもあるから、そうした場所で力を発揮してもいい。少なくとも東京で働いているのと同等以上のやりがいを得られるんじゃないかと思う。

 「彼はとても優しく信頼できる人です」というくらいだから、東北に行くということを除けば、結婚相手として申し分ないのだろう。我が愛する東北が良縁の障害になっているとしたら残念でね。