真剣に馬鹿をやれば見えてくるものがある

ミツハシ:壮大なロマンとは正反対ですが、不幸のどん底のような作品を読むというのも、似たような境遇の人の不幸に慰められるという心理を相対化してくれるんじゃないでしょうか?

シマジ:それもあるかもしれないな。だとしたら、ゾラの『居酒屋』を薦めるね。この作品の中には人生の崇高さなど微塵もない。本物の貧困と本物の不幸、ずぶずぶと沈んでいく救いのない堕落が描かれている。これにショックを受ければ、狭く似たような世界に住む者と比較して、その小さな差に一喜一憂している自分がバカバカしくなるかもしれない。

 例えば、震災の被災地に行ってボランティアをしてみたらどうだ。相談者が抱える問題は、世界が狭すぎることが原因しているんだと思う。被災地にはいまも何人もの社会人が休みを使って被災者支援に従事している。前向きに生活再建に向かう被災者と、彼らをサポートする自分と同じような年齢・職業の人と接したら、相談者の言う「かごの中のハムスターのような生活」なんて、自分の意思でいくらでも変えられることが実感できるはずだ。

 せっかくいろんな趣味を持っているんだから、どんどん外に出て交友を広げ、世界を大きくしてほしい。36歳にして笑うことが少ない人生ではもったいない。これまで接してこなかった人たちに交友を広げるといい。ロマンチックな愚か者と友達になれればもっといい。そういう連中と、一緒になって真剣にバカなことをやっていれば、サラリーマン的な常識や価値観はかなり薄まり、自分だけの幸せの姿が見えてくると思うね。

本記事は、 nikkei BPnet から転載したものです