もっとバカになればいいんだよ。ロマンチックな愚か者にね

ミツハシ:本当はそうした状況から抜け出したいからこそ、こうして相談をしてきたんでしょうね。

シマジ:おそらくそうだろう。たびたび薦めてきたが、この相談者にこそ、ツヴァイクの『マゼラン』(みすず書房)を読んでほしい。世界就航というとてつもない冒険に乗り出していったマゼランの信念と、部下の反抗や反乱などを苛烈な方法で収め、目的を遂行する強烈なリーダーシップを知れば、なぜ自分の現状を他人と比較してでしか幸福を感じられないかが分かるはずだ。マゼランを動かした原動力は一言で言えばロマンだよ。壮大なロマンを持つ人間は、自分の幸福度合いを推し量るために他人の不幸など必要としない。というか、自らのロマンを追い求めることで夢中な人間は、そもそも自分は幸せなのか、充足しているのか、などという問いを発したりしないんだ。

ミツハシ:先に紹介した実験でも、人は自分と価値観や境遇が似た人にほど嫉妬を覚えやすいという結果が出ていました。相談文によると、相談者が自分と比較しているのは、やはりサラリーマンのようです。シマジさんの言う「壮大なロマン」というのは、凡人とは全く異なる価値観と言い換えられそうですね。そんな価値観を持っていれば、周囲のサラリーマンと自分を比較する気にならないでしょう。しかし、一番の問題は、普通のサラリーマンに「壮大なロマン」なんていうものが抱けるかという点です。

シマジ:抱けるさ。ロマンの対象は何でもいいんだからな。相談者は英語、武道、本、酒、デリヘル嬢と打ち込めるものがあるらしいから、好きな対象にもっともっと淫してみればいい。サラリーマンが趣味を楽しむとしたら、これくらいが適当なんていうリミッターを外すんだ。もっとバカになればいいんだよ。ロマンチックな愚か者にね。

 何の武道か知らないが、生活をその武道とやらで一色に染めればいい。通勤の時間も武道の鍛錬に当て、仕事中も椅子になど座らず中腰で足腰を鍛える。読書も2~3年間、武道に関するものだけを集中的に読み、英語の武術書にも手を伸ばす。デリヘル嬢に淫するなら、「お小遣いの範囲内で」なんて考えず、一度に5人くらい、英語ネイティブのカワイコちゃんを呼んで武術を応用した性技を繰り出し、閨房の英会話に磨きをかければいい。人がやらないレベルまで好きなことに淫すれば、他人との比較になんて興味はなくなる。自分をサラリーマンと規定するから、周囲のサラリーマンが気になるんだ。自分を、武道を通じた性技の探求者とでも定義すれば、唯一無二のアイデンティティーを確立でき、他人と比較なんかしなくなる。