健康であることが絶対に欠かせない

ミツハシ:まともな判断や思考ができないエアポケットのような瞬間が彼女に訪れ、そのとき悪魔が差し伸べた手を思わず握り返してしまったんでしょうね。

シマジ:自殺というのは、多くがそういうものだろう。ふと、このまま死んじゃおうかなという思いが頭をもたげ、そのまま突き進んでしまう。だから、彼女を救うことは誰にもできなかったと思うべきだ。

 時計の針は巻き戻せない。最愛の妻が死を選んだというところが相談者の出発点だ。酷い出発点だが、ここまでの理不尽を経験すれば、これからそうそう悪いことは続きやしない。必ず運は向いてくる。途中で人生を終えてしまった奥さんの使い残した運も自分のものだと思って、これからの人生を積極的に愉しんでほしい。そのために大切なのは何より健康だ。

 まじめに規則正しくつつましい生活を送っていれば、たいていは長生きできる。だが、俺が追求するのは、毒蛇の心を持ちながら長生きする生き方だ。飲みたいだけ飲み、吸いたいだけ吸って、抱きたいだけ抱き、深刻そうな顔などこれっぽっちも見せず、友と冗談を言い合い、大いに笑いながらふてぶてしく長生きする毒蛇不良老人だよ。悪魔とニコニコ握手をしながら、だが決して死に引き寄せられることなく、この現世を遊戯三昧で愉しみ尽くす。

 そのためには健康であることが絶対に欠かせない条件になる。「健全な精神は健全な肉体に宿る」なんていうが、健全な精神なんかより、不健全な不良の精神を保ち続けるほうがよっぽど大変なんだ。そのためには体が丈夫でなくては話にならない。

 相談者は子供を一人で立派に育てなければならないとか、女を救えなかった俺にはもう女を愛する資格などないなんていう詰まらない考えには決して陥らないでほしい。重いと思ったら一人で抱え込まず、誰かと一緒に担げばいい。愉しいと思うことは心から愉しめばいい。相談者が苦しんだり、悩んだり、自責の念にかられて喜ぶ人間は一人もいない。キミ自身が自分の人生を愉しもうとすることが、人生に絶望してしまった妻への手向けだ。彼女を連れて行ってしまった悪魔への優雅な復讐だ。

本記事は、 nikkei BPnet から転載したものです