ミツハシ この質問文ではよく分かりませんね。おそらく相談者自身、こうしたいという明確な意思はないのではないでしょうか。一線を画したいという気持ちが基本にはあるが、何と言っても一目ぼれした相手ですから、その先輩とまた男女の仲になったとすれば、それはそれでいいという気持ちも少しはあるんじゃないですか。

シマジ  いずれにせよ、相談者は婚約を破棄する気がないとして話を進めよう。まず、男女の仲とは一線を画した関係に持ち込みたいのだとすれば、これは相談者よりもむしろ、先輩の考え方次第だろうな。

 女は現実主義者だから、一度寝たことなんて簡単に消しゴムで消せてしまう。「そう言えば前に一度寝たけど、それが何?」てなもんだ。だから、相談者がもうこの先輩と寝たくないなら、あの時は寝ちゃったかもしれないけど、まあ、あれはハズミだから忘れちゃおうと思えばいい。そのうち跡形もなく消えていくよ。

 だが、男の方は、なかなかそうはいかない。素敵な男なら、一度関係を持ったとしても相手の女にその気がないと分かれば、愛情崩れの友情へ美しく移行できる。だが、たいていの男は一度寝た女は、また簡単に抱けると考えがちだ。そういうガツガツしたスケベ男だと厄介だ。相談者が結婚した後も、しつこく関係を求めてくるかもしれない。先輩が素敵な男であることを願っているよ。

俺の感覚から行くと、いかにも世界が狭いし、美しくない

ミツハシ この先輩ですがね、狭い大学社会の中ですから、当然、相談者に婚約者がいて、その相手が自分の後輩であることも知っているはずですよね。つまり、後輩の婚約者に言い寄って寝取ったわけで、ここらへんから、この先輩の今後の振る舞いを予想できませんか。

シマジ  難しいな。世の中には人のものをほしがる男というのは少なくない。というより、フランスのコキュ文化ではないが、男というのはむしろ空き家より入居済み物件に忍び込みたがるからな。

 ただし、俺の感覚から行くと、後輩の婚約者と男女の関係になってしまうというのは、いかにも世界が狭いし、美しくない。俺は会社員時代に女の部下を持ったことがないので、当然、部下の女といい関係になるなんてことはなかったが、仮に女の部下がいても絶対にそうならなかったと断言できる。

ミツハシ それはまたなぜ?

シマジ  俺は女が大好きだが、それよりも男が好きだからだよ。俺の肉体は女を求め続けてきたが、精神的には女よりも男の方が好きなんだ。だから、大好きな男に馬鹿にされるようなことだけは絶対にしたくないと思うんだよ。

ミツハシ 部下の女性に手をつけるというのはシマジさんにとって、男たちから馬鹿にされる行為なわけですね。

シマジ  そりゃそうだ。部下からすれば、俺たちのボスは偉そうなことを言っていながら、あんな手近な女で済ませているのか、ということになる。友人たちも、「シマジが社内の女に手をだしたってよ」と嗤いながら酒を飲むだろう。俺のことを「面白い男だ」と可愛がってくれた先輩たちを失望させることにもなる。社内の女に手を出した際に、唯一男を下げないで済む方法は、その女と結婚することだけだよ。

 だから、男は山を2つ3つ越えて狩りに出かけるべきなんだ。そうすれば、男たちは、遠いけもの道を一人で歩む勇気を、危険の潜む見知らぬ土地で獲物を捜し求める努力を、未知の獲物に立ち向かう勇敢さを褒めてくれる。