前回までのまとめ
これまでの連載を通じて、私たちは「破壊的イノベーターになるための7つのステップ」のうち、①どのタイプのイノベーターになるか戦略を立て、②多様なメンバーをチームに集め、③「無消費者」や「満足過剰な顧客」を探し、④正しくブレインストーミングを行うためのやり方について学んで来ました。
今回はそれらに続く5番目のステップである「破壊的アイデアを選び出す」ための手法を学ぶ最終回です。(■図1参照)
■図1 破壊的イノベーターになるための7つのステップ
この連載では、上の図の7つのステップの中で、①「3つの基本戦略」→②「多様なメンバーをチームに集める」→③「無消費の状況や満足過剰な顧客を探す」→④「『正しく』ブレインストーミングを行う」→⑤「破壊的アイデアを選び出す」──と5つのステップについて順番に説明してきました。現在地は⑤です。
「破壊度測定器」で高得点が得られるビジネスモデルとは
前回の連載で私たちは、ブレインストーミングで出された多種多様なアイデアの中から破壊的アイデアを戦略的に選び出すための「破壊度測定器」の使い方を学びました。これは、「それぞれのアイデアがどの程度破壊的か」をおおまかな点数にして測るもので、9項目からなる質問項目のそれぞれについて、「まったく破壊的でない(0点)」、「ある程度破壊的である(5点)」、「最も破壊的である(10点)」の三段階で評価し、その合計点(90点満点)で、アイデアの破壊的イノベーション度合いがわかるというものでした。
具体的に言えば、高得点が得られるビジネスモデルは、以下のような条件に合うものです。
■初年度のターゲットが「ニッチ市場」で
■顧客は解決したい用事(ジョブ)を「もっと簡単に片づけたい」と考えており
■顧客はその製品やサービスを「必要にして充分である」と考えていて
■価格は「低価格」であり
■そのビジネスモデルが、ライバルのビジネスモデルとは根本的に異なり
■市場へのアクセスがライバルとはまったく違う「新しいチャネル」を必要とし
■競合他社はこの戦略を「気にしておらず(=ばかにしており)」
■初年度の収益は「少額」である一方で
■今後1年間に必要な投資は「平均以下」
(出典: 『イノベーションへの解 実践編』 スコット・アンソニーほか著 翔泳社 2008年刊)
選抜してきた破壊的アイデアを、さらに、4つの観点から評価、比較する
最終試験、「破壊度—能力マップ」で実現性を評価する
さて、今回はいよいよ、これまでにふるいにかけてきた「破壊的アイデア」の候補を一枚の図にまとめて、自社がどのアイデアを実現するべきかを見極める方法について学びましょう。
ここでは、レジュメにまとめられ、チェックリストと破壊度測定器によってふるいにかけられた後、最終候補に残ったアイデアたちを、複数の評価軸を使って比較検討します(■図2参照)。
■図2 アイデアの破壊度、自社の実現能力、利益とその確信度のマッピング
なるべくこのマップの右下に位置する(破壊度が高く、自社の能力や動機と整合する)ものを選ぶ。円が大きくて(長期的利益の可能性が高い)、色が濃ければ(確信度が高い)一層望ましい。逆に左上にマッピングされたものは却下される。
■【評価要素①】横軸──アイデアの破壊度
第一の評価軸は、それぞれのアイデアの破壊的イノベーションとしての可能性です。これはすでに、チェックリストや破壊度測定器によって評価ができているでしょうから、それを図の横軸に取ります。
■【評価要素②】縦軸──自社がそのアイデアを追求する能力と欲求
第二の評価軸は、それらのアイデアと自社の戦略との適合性、すなわち「自社にそのアイデアを追求する能力と必然性がどの程度あるか」です。ビジネスのアイデアを入社希望者に例えると、仮に自社に大学野球で華々しい活躍をした候補者が来たとしても、その会社に野球部がなければ、その優れた能力を活かしようがありません。
同様に、いくら優れた破壊的ビジネスモデルのアイデアだったとしても、自社にそれを実現する能力や動機がなければ、そのアイデアを破壊的イノベーションへとつなげることは不可能なのです。
逆に、自社がそのアイデアを実現するためのユニークな能力を持っていたり、そのビジネスを進んでやりたくなるような価値基準が内在したりしている場合は、それらのアイデアは図の下側にプロットされるべきだということになります。
例えば、任天堂はかつてファミリーコンピュータを発売するにあたり、それを低コストで実現するために、オリジナルのLSIをリコーとともに開発しました。その理由は、(1)価格を下げるにはチップ面積が小さいほうが望ましい、(2)他社から真似をされないためには国内であまり普及していないアーキテクチャのほうがよい──という2点だったそうです。
実際、ライバルの玩具メーカーがファミコンのCPUが何であるかを突き止めるには、その発売後1年程度の時間が必要だったそうです。このように、イノベーションを実現する上で必要不可欠で、かつ他社に模倣困難な能力を持っていれば、ライバルは追いつくのが困難になるのです。
■【評価要素③】アイデアの収益可能性
第三番目の評価軸は、それぞれのアイデアの潜在的な収益可能性を大まかに(1億円なのか、10億円なのか、100億円なのか、といった桁数=ゼロの数で)見積もったものです。これを、図の中に、円の大きさとして表します。
■【評価要素④】アイデアの確信度
最後に、評価者がそれぞれのアイデアの収益可能性についてどの程度自信があるかを円の色の濃さで表現すれば「アイデアの破壊度、自社の実現能力、利益とその確信度のマップ」のできあがりです。
マップの右下に位置するアイデアを選ぶ
あとは、なるべくこのマップの右下に位置するもの(破壊度が大きく、自社の能力や動機と整合するもの)を選んで実行すればよいのです。円が大きくて(長期的利益の可能性が高い)、色が濃ければ(確信度が高い)一層望ましいでしょう。
もし、ブレインストーミングで見出された「顧客が片づけたい用事」が一つであっても、それを解決するためのアプローチがいくつも考えられる場合には、それぞれのアプローチ毎に別々にこの「アイデアの破壊度、自社の実現能力、利益とその確信度のマップ」の上にプロットすれば、どのアプローチのアイデアを実行すべきかが一目瞭然となり、社内外のコンセンサス形成に役立つでしょう。
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