顧客が既存サービスあるいは「無消費」から乗り換えて来てくれるか

■質問⑤:顧客は、提案されたソリューションを、自身の「用事」を片づけるためのより良い手段だとみなしてくれそうか?

 あるアイデアが提供する解決策が顧客に受け容れられるためには、「そのソリューションが従来と異なる」というだけでは不十分です。顧客がそのアイデアを「既存のソリューションと比較して優れている(持続的イノベーションの場合)」、もしくは、「これまで『制約』のために無消費の状況だったことに比べ、そのソリューションによって『用事』が『解決』できるようになった(新市場型の破壊的イノベーションの場合)」あるいは「やりたいことは十分こなせ、価格は圧倒的に安い(ローエンド型の破壊的イノベーションの場合)」とみなしてくれる必要があります。

 サンフランシスコにある、あるベンチャーキャピタルでは、「破壊的イノベーター企業」に投資するファンドを富裕層や基金などに対して販売しているそうですが、その企業選別のクライテリア(判断の基準)は、「従来製品・サービスの70%程度の性能のものを、20%程度のコストで実現している(ローエンド型の破壊的イノベーション)」ことだそうです。

目的達成のためにパートナーは協力してくれるか

■質問⑥:ビジネスパートナーも我々同様、ターゲットの追求に積極的か?

 この問いに対する答えは、持続的イノベーションの場合には「イエス」、破壊的イノベーションの場合には「ノー」となることが多いです。破壊的イノベーションのアイデアを顧客に提供する際に、自社の既存製品の販売部門や既存の取引先(特に販売チャネル)を利用しようとするのは、既存企業がしばしば陥ってしまう誤りです。なぜなら、現在のパートナーが、新たな破壊的製品・サービスにおいてもこれまでと同様に、販売に協力しようというインセンティブを感じるとは限らないからです。

 たとえば、ミニ・コンピュータの雄であったDECは、マイクロプロセッサを用いて作られた「パーソナル・コンピュータ(パソコン)」が、今後、重要な商品に成長すると感じ、都合5回にわたってパソコンを開発し、販売しようと試みました。

 DECは、開発したパソコンを販売する際に、既存のミニコンの販売チャネルに、パソコンも併せて売らせようとしました。しかし、販売金額に応じた褒賞を約束されていたDECの営業部隊は、ミニコンより単価の安いパソコンを売りたがりませんでした。また、ミニコンのユーザーの方も、性能の低いパソコンなど欲しがらなかったため、DECの5度にわたるパソコン進出の試みは、全て失敗したのだそうです。

 このように、自社の既存製品の販売部門や販売パートナーに、単価が安く性能も低い破壊的製品を売ってもらおうとするのは、良いやり方とは言えません。破壊的製品の販売は、既存製品とは別の、破壊的製品の販売を最優先してくれるようなチャネルを選ばなくては、成功は覚束ないでしょう。


 ──以上、アイデア・レジュメのスクリーニングのためにする12の質問のうち、前半の6個について解説しました。
 次回は、残る6個の質問について、詳しくご説明する予定です。
 お楽しみに!

日経BP社主催
イベント(有料)中での講演のお知らせ
 日経BP社主催で、2016年7月25日(月)~29日(金)、六本木アカデミーヒルズで開催されるイベント「D3 WEEK 2016」の期間中の27日(水)に、講演をします。ご興味のある方は、以下のURLにアクセスしてみてください。

イベント「D3 WEEK 2016」(主催・日経BP社)
 http://expo.nikkeibp.co.jp/d3/

【日時と場所】
■日時:2016年7月27日(水) 12:00~15:00
■場所:六本木アカデミーヒルズ
(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズタワー49階)

【講演内容】
カーシェアリングで学ぶイノベーションの兵法
~営業利益10億円超のタイムズのカーシェア責任者も登壇~

ビジネス講演会(無料・事前申し込み不要)のお知らせ
 私の勤務する関西学院大学ビジネススクールでは、来る2016年7月9日(土)に「製造業のサービス化~モノ作りの次に来るもの~」と題した最新ビジネストピック講演会・入試説明会を開催いたします。関西近辺の皆さんはふるってご参加ください。参加費無料・事前申し込み不要です。

【日時と場所】
■日時:2016年7月9日(土) 13:00~15:00
■場所:関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1005教室

【内容】
・講演「製造業のサービス化~モノ作りの次に来るもの~」山本昭二 教授
・企業経営戦略コースの説明/・入試概要説明
・修了生メッセージ ~修了生だから語れるMBAの価値~

【問い合わせ先】 関西学院大学経営戦略研究科  TEL 0798-54-6572
 http://www.kwansei-ac.jp/iba/news/iba/

著書の紹介
 さて、いよいよシャープが鴻海精密工業の傘下に入ることになりました。私は、シャープが経営不振になってしまった原因の一つは、テレビという商品が、「性能を向上させればそれだけ顧客の満足度が向上する『持続的イノベーションの状況』」から、「顧客がこれまで重視していた性能をいくら向上させても、これ以上顧客満足の向上が感じられない『破壊的イノベーションの状況』」になってしまっていたにもかかわらず、研究開発の方向性をマネージせず、従来通りの高精細化、大画面化へひた走ってしまったところに、円高とウォン安のダブルパンチを受けたことが原因ではないかと考えています。

 拙著『日本のイノベーションのジレンマ 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』(翔泳社)では、こうしたテレビの事例のほかに、スマートフォンの事例やデジタルカメラの事例を採り上げ、「なぜ、日本の優良企業が破壊されてしまったのか」、「破壊される側でなく破壊する側になるにはどうすれば良いのか」についても、経営学の理論というレンズを通して考察を行っています。
 よろしければ是非、お近くの書店等で手に取ってみて下さい。