しかし通常、そうした情報は新たに発売された洗剤や柔軟剤のラベルを見れば分かるものです。わざわざスマホを取り出して洗剤名を検索し、その情報を洗濯機に転送しなくても、顧客は同じ目的を、洗剤のラベルを見て必要量を直接洗濯機に投入することで、より簡便に果たすことができたのです。

 この「スマホで洗剤投入量の設定をする」という「用事」がこなせる洗濯機は、通常の機種より三万円ほど高価なプライスタグがつけられていましたが、私を含めた多くの顧客は、価格上昇に見合うだけの価値をその機種から感じることはできなかったのではないでしょうか?

顧客はフラストレーションを感じているか

■質問②:既存のソリューションでは何らかの「制約」により、顧客がその「用事」を適切に片づけることができないでいるか?

 この質問は、アイデアが新市場型の破壊的イノベーションである場合には「イエス」になります。何らかの制約のために、現在のソリューションでは「顧客が用事を適切に片づけることができないでいること」すなわち、「顧客がフラストレーションを感じている状況」であることを確かめる質問だからです。

 「制約」とは「使いにくい、使うのに専門家の助けが必要」「高価すぎる」「使うのに不便な場所に行かなければならない」「使うのに時間がかかる」などです。それらの「制約」のために、消費者は「無消費の状況」になって、何らかの「代償行動」をしているはずです。たとえば、「自宅でコピーが取れないのでコンビニに行く」「家に居ても肩こりが取れないので週に一度は治療院に通っている」などがこれに該当します。

 このような制約された状況を解決するようなアイデア(キャノンのミニコピア、マッサージチェアなど)を選び出し、商品やサービスとして提供できれば、破壊的イノベーションを起こすことができる可能性が高いのです。

 キヤノンのミニコピアや近年のプリンタ複合機は、わざわざコンビニまで出かけてコピーを取らなければならないという「アクセスの制約」を解消したからこそ、多くの顧客に受け入れられたのです。

「必要十分」な部分と「優れている」部分のバランスは取れているか

■質問③:提案されているソリューションは「必要十分」であるべき点では必要にして十分であり、優れていなければならない点では優れているか?

 破壊的イノベーションのソリューションは、従来とは根本的に異なる「性能の束」を提供します。従来の製品の主流市場において重要だった特性については「必要十分」な性能を提供する一方、従来は見逃されていた特性(例えば、利便性やアクセスの容易さ、カスタマイズの容易さ、価格…など)では優れた性能を提供するのです。

 例えば、ヘアカットのQBハウスは、髪を切るという従来の市場で重視されていたサービスの品質では「必要十分」ですが、カットが10分で済む利便性、駅のホームをはじめ至る所にお店があることによるアクセスの容易さ、千円ちょっとというリーズナブルな価格設定などにおいて優れているため、多くの顧客に受け入れられました。

比較的低コストで素早く実現可能か

■質問④:足場となる市場に比較的迅速に、かつ、比較的低い投資額でリーチできるか?

 新規事業では、往々にして最初の戦略は間違っている可能性が高いものです。ですから、最初に「足場」となる市場に迅速かつローコストで到達できることは、市場からのフィードバックをいち早く得て、ビジネスの新たな方向性を探っていく上で、きわめて有利となるのです。

 「比較的」迅速にかつ「比較的」低い投資額でと申し上げたのは、市場への展開速度や必要となる投資額は、類似のほかのプロジェクトとの比較で議論される必要があるからです。

 2009年にドライバー10人で創業した社歴わずか7年のウーバーが、今や契約ドライバー100万人以上、全世界の300都市以上でビジネスを展開し、時価総額7兆円とも言われるまでに急成長を遂げました。その要因は、ウーバーのビジネスモデルにおいて車を所有するのがドライバー自身であり、かつ、会社がドライバーに配布する端末は汎用品のiPhoneにウーバードライバー用のアプリを入れたものである点にあります。

 これにより、事業を拡大するために車や車庫に大きな投資が必要な従来のタクシーのビジネスモデルと比べ、ウーバーはビジネスを拡張するために必要となる資金が圧倒的に少なくて済むため、迅速かつ低コストでスケールアップが可能となったのです。

(*ウーバーはアメリカなどにおける既存のタクシーと比べて、スマホで呼べて車内が比較的清潔、明朗会計でチップが不要、TPOに応じて車格が選べる、ドライバーに対する顧客の評価制度やそれに基づくサービス改善など、多くの点で卓越しています。顧客も既存のタクシーからの代替が中心なため、「持続的イノベーション」に分類されるビジネスです。しかし、そのITを活用した圧倒的低コスト・高品質のビジネスモデルで、タクシー業界にあたかも「黒船襲来」のような激震をもたらしています)