これに対し「買収後の経営戦略・統合計画策定」にもっと力を入れておけばよかったと答えた経営者は55%にものぼります。M&A失敗の2大要因のうちのひとつ「統合マネジメントの失敗」が起きる原因は、経営者が企業買収後の経営に充分注力しなかったことにあると考えられます。

 たとえば、ある日本のエレクトロニクスメーカーは、アメリカのプリンタメーカーを買収するまでは役員が率先して熱心に取り組んだのですが、買ってしまった後は部下に丸投げで、「お前らこの会社を買ったから、後はなんとかしろ」と言ったきり放ったらかしにしているそうです。しかし、経営者の仕事は買収して終わりではなく、買収はむしろ始まりで、経営者の仕事は買収効果がきちんと表れるまでのはずでしょう。その役員には、私が子供の頃に先生から言われた「家に帰るまでが遠足です」という言葉を贈りたいと思います。

破壊的買収には「統合しないマネジメント」が求められます

 買収のタイプが「破壊的買収」の場合には、持続的買収よりもさらにもう一段階マネジメントの難易度が高まります。なぜなら、「戦略を整合させるマネジメント」ではなく「戦略オプションを増やすマネジメント」が、「買収先企業と自社を如何に統合させるか(統合マネジメント)」ではなく「買収元をできるだけ独立させ、自律させる(統合しない)マネジメント」が求められるからです。

 破壊的買収のマネジメントを確実に行うための前提条件は、自社にとってそれが「持続的買収」なのか、それとも「破壊的買収」なのかを明確に峻別することです。

 破壊的企業を買収した後、安易な統合を進めてしまえば、IBMがPCの成功を自社に取り込もうとして開発した「PS/2」(IBMがPC/ATの後継として、1987年に発売したパーソナルコンピュータのシリーズ)で失敗したように(当連載2017年1月19日配信 「PCの原型『IBM PC』を開発した“独立愚連隊”」参照)、せっかく手に入れた金の卵を産むガチョウ(破壊的事業)の力の源泉である「価値基準」や「プロセス」を殺してしまうことになるでしょう。破壊的ビジネスモデルからの収益で事業リスクをヘッジするには、買収後も買収先企業の独立性・自律性を確保しなくてはならないのです。

 ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が著書『イノベーションのジレンマ』で述べているように、「買収した企業のプロセスや価値基準が、本当に成功の源であるなら、買収する側の経営者は、その企業を親会社に統合しようとするべきではない。買収された企業が、そのプロセスや価値基準によって過去の成功を築いてきたのなら、子会社の独立性を保ち、そのプロセスと価値基準を活かしつつ、資源を投入する戦略を採ったほうがよい。このような戦略こそ、本当の意味での新しい能力の獲得と言える」のです。