知らず知らずのうちに、買収すること自体が目的になっていく

 A・T・カーニーの平尾彰章パートナーは、「M&Aチームは、案件に取り掛かると知らず知らずのうちに、買収すること自体が目的になっていく。買収することが自己目的化していくと、交渉条件が次第に悪くなっても撤退しにくくなる」と述べています。そして、M&Aを成功に導くビジネス・デューデリジェンス(事業の将来性や資産の査定)の原則の一つとして、投資テーマに沿った「撤退基準」を規定することを推奨しています(Business Research 2011. 5・6, p40.)。

 ローランド・ベルガーが行った調査によると、M&Aが失敗する2大要因は「戦略整合性の欠如」と「統合マネジメント(買収先企業と自社を如何に統合するか)の失敗」であるそうです(藤岡隆史「M&Aを真の成功に導く企業統合マネジメント」『THINK ACT 視点』vol. 59, 2009.8.)。これらの敗因のうち「戦略整合性の欠如」が起こるのは、本来であればまず「大きな方向性として企業の戦略があり、それを達成する手段としてM&Aがある筈」なのに、「企業戦略との整合性のすり合わせをせずに、M&A自体が目的化してしまう」ためです。

 買収の結果、「M&Aによるシナジー効果はどの程度見込まれるのか?」「M&Aに伴いどのようなリスクが発生しうるのか?」といった、最優先で検討すべき課題を経営陣と中核スタッフで検証することなくM&Aに踏み切ってしまった場合、しばしば、蓋を開けてみると「期待通りのシナジーが出ない」、「まったく想定していなかった問題が次から次に出てくる」といった不本意な結果に陥ります。

企業のM&Aは経営の上級者向けのスキル

 以前も申し上げましたが、企業のM&Aは経営の上級者向けのスキルです。それを成功させるためには、①資源を買うのかビジネスモデルを買うのかを明確にし、②買収先企業の価値を正確に見極め、③妥当な条件で買収契約を結ぶことが不可欠なのです。

 ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、「証券アナリスト達は、現在の株式市場でのランキングから企業の可能性を判断することはできても、破壊的企業が製品やサービスを改良して、どれくらい株式市場を駆け上がっていくかを見通す事は出来ない。そのため、破壊的企業の潜在成長性をきまって過小評価する」(『真実のM&A戦略』、『C・クリステンセン経営論』381頁、ダイヤモンド社)と述べ、「買収価格は買収の目的によって左右される以上、適正価格を決定できるのは買い手だけである」(同、388頁)と喝破して、経営者が買収先企業のビジネスモデルの、自社にとっての価値を評価する能力こそが、M&A成功の唯一の鍵だと示唆しているのです。

 さて、いかがでしたか? 今回もお楽しみいただけましたでしょうか?

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