参与観察(エスノグラフティマーケティング)が有効

 こうした消費者が真に片付けたいと思っている用事を見出すために、ユーザーが実際に既存の製品を使っている現場に入り込んで観察し、ユーザー自身も気づいていない潜在需要を発掘する手法を、マーケティングの世界では「エスノグラフィ(文化人類学的)マーケティング」と呼んでいます。

 例えばP&Gでは、小売店や家庭などの観察を基に「言われてみれば欲しかった」と消費者が思う新商品を生み出しています。“ファブリーズ”は「家の中の布から漂う、何となく気になるニオイ」を解消する商品ですが、この“何となく”という漠然とした不満は、アンケート調査にはなかなか表れにくいです。

 そのため、P&Gでは、マーケターによる家庭訪問をし、こうした不満を見出すことができたのだそうです。(出典:日本マーケティング協会HP福井遥子「外資系企業にみるエスノグラフィーマーケティング」マーケティングホライズン2010年12号)

バイオデザイン・プログラムでは手術室の中まで入り込む

 連載第8回でも御紹介した、スタンフォード大学のバイオデザイン・プログラムでは、フェロー達はオリエンテーションが終わるや否や二人一組のペアに分かれ、2カ月間にわたって臨床現場に入り込むのだそうです。そして、医師、看護師、病院スタッフ、入院・外来患者とその家族といった、医療の現場にかかわる様々な人々を参与観察します。

 参与観察の場は、病棟や診察室はもちろん、手術室や集中治療室にまで及び、チームのメンバーは医師が患者を治療する臨床の“現場”を徹底的に観察します。医療に携わる様々な人々と経験を共有することで、医師や看護師たち自身も気付いていなかった「こんな医療機器があったらいいのに」という潜在的な需要(用事)を発掘するのです。

ニーズを簡潔な文章にまとめる“ニーズ・ステートメント”

 その後、チームは「どういった状況」が「どのように改善されるべきか」について意見を出し合い、発掘したニーズの特徴を、簡略かつ明確な一行のステートメント(記述)にまとめます。こうすることで、それぞれのニーズの本質が浮き彫りにされるのです。

 このプロセスは「ニーズ・ステートメント(潜在需要の明文化)」と呼ばれています。現場に潜在する需要が持っている事業化価値や重要性を見極め、関係者に明瞭に伝達するための有用な方法だとされています。