これまでの連載を通じて、私たちは、ある企業にとって破壊的なイノベーションとは、その企業の主要顧客が重視する性能が低過ぎるため、その企業の既存製品の顧客からは「そんなオモチャは要らない」と拒否されてしまう性質を持つことを学びました。

企業は「非対称的モチベーション」という特性を持っている

 そして、既存の企業は、市場の上方向(利益率が高まる方向)には上がれる(持続的イノベーションは出来る)が、市場の下(利益率が下がる方向)には降りにくい「非対称的モチベーション」という特性を持っています。このため、利益率が低く既存顧客が求めないような破壊的なビジネスを既存の企業組織の中で育てようとしても、その破壊的ビジネスに必要な資源が割り当てられなかったり、仕事を進めていくために必要なプロセスが既存のプロセスと異なったりするため、まずうまく行かないということも学びました。

 この問題について、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、著書の中で以下のように語っています。

 「顧客が明らかに求めていない破壊的技術(ビジネス)が出現したとき、経営者はどうすべきだろうか。方法の1つは…(中略)…収入源である顧客が拒否しようと、上位市場の技術より収益性が低かろうと、その技術は長期的戦略にとって重要であると、全社員に伝えることである。もう1つの方法は、独立した組織をつくり、その技術を必要とする新しい顧客のなかで活動させることである」と。このように、経営者には2つのオプションがあることを示唆しています。

意思決定を独自に行える別組織で取り組む

 そして、「最初の方法を選んだ経営者は、企業の投資パターンを本質的に支配するのは『経営者ではなく顧客である』という、組織の強力な傾向と戦う道を選ぶことになる。もう1つの方法を選んだ経営者は、この傾向に逆らわず、そのような組織の力と戦うのではなく、調和することになる。(中略、ここ)で示す事例は、2番目の方法のほうが1番目の方法よりはるかに成功する確率が高いことを強く示唆している」とし、破壊的ビジネスを成功させるためには、それを受け容れてくれる顧客にフォーカスし、破壊的ビジネスへの経営資源配分を最優先させる意思決定を独自に行うことができるような別組織で取り組むことが望ましいとしています。(出典:クレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ』148頁~149頁、カッコ書きは筆者補足)

 ですから、既存企業が本気で(自社にとっての)「破壊的イノベーションを起こしたい」と願うのであれば、破壊的アイデアに経営資源を最優先で配分するような「価値基準」を持ち、破壊的アイデアに最適化されたビジネスの「プロセス」を持つ「新しい独立した組織」で取り組む必要があるのです。(■図1 領域D参照)

■図1 新ビジネスための組織構造を考えるためのフレームワーク
(出典:クレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ』240頁 図8.1をベースに筆者改訂)