(日経ビジネス2017年5月22日号より転載)

 自衛隊で統合幕僚長(編集部注:制服組のトップ)を務めていた時に東日本大震災が発生しました。指揮官として留意したのは、目の前で起きている事象と、手元にある部隊の能力を正確に評価し、組織をスムーズに動かすことでした。

(写真=加藤 康)
(写真=加藤 康)

 地震・津波の対応には、陸上・海上・航空自衛隊から集めた部隊を一体的に運営する統合任務部隊を組織し、3者が無駄なく連携できる体制を敷きました。

 救難物資の配付の一例を説明しましょう。まず海自の船で救難物資を仙台沖まで運ぶ。これを空自のヘリコプターで陸自の拠点まで運搬。陸自の隊員がそれぞれの避難所に送り届ける。統合部隊であれば、こうした任務を最短の時間と最少の要員で実現できます。

 さらに統合任務部隊の指揮官に、陸自で東北6県の責任者を務める君塚栄治総監(当時)を充てました。陸自は、ふだんから地元の自治体や住民と接点があり、人情にも通じている。現場を最もよく知る彼らに、現場のことを任せました。

 統合任務部隊とすることで、トモダチ作戦を進める米軍との窓口を一元化することもできました。米軍が統合部隊を基本とするのに対し、自衛隊が陸海空に分かれていると、指揮が錯綜するなど混乱が生じかねません。

 一方、福島第1原子力発電所で発生した事故の対応にはCRF(中央即応集団)を充て、東京にある統合幕僚監部と緊密な連携を取りつつ対応しました。原発の対応には政治の判断が大きく作用します。電力会社との連携も欠かせないからです。

 地震・津波対応の現場を統合任務部隊に委ねた背景には、自衛隊が培ってきた、こんな考え方がありました──平時の組織管理は性悪説で、有事の実行は性善説で臨む。平時の訓練は高い目標を定め、それを達成すべく厳しく管理する必要があります。そうでないと、組織や人は安きに流れますから。