(日経ビジネス2018年4月2日号より転載)
ロケットは人生の「師」

京都府八幡市の飛行神社、ご存じですか。日本で初めてゴム動力の飛行機を発明した二宮忠八氏が空の安全を祈願して建てた神社です。私は大型ロケット「H2A」の打ち上げがあるたびに参拝していました。射場のある鹿児島県種子島に行く前にね。神頼みか、と思われるかもしれませんが、それだけじゃないんです。節目を設けることで、自分たちがたどってきたプロセスを振り返る機会にするのです。
私は三菱重工業時代にH2Aの打ち上げ執行責任者を務めました。JAXA(宇宙航空研究開発機構)から三菱重工に打ち上げ事業が民間移管された13号機(2007年9月)から18号機(10年9月)までの6機について、「打ち上げるか」「打ち上げないか」の最終判断を下してきました。
ロケットの打ち上げ事業は、ルーティンワークそのものです。H2Aの部品点数は約100万点。関連するサプライヤーは約千社に及び、打ち上げ当日も数百人がかかわる。当然、打ち上げに向けての点検項目は何千もあります。ひょっとすると、万単位かもしれません。それを一つひとつ、漏れがないようにチェックする。その作業の繰り返しです。
打ち上げ当日に限れば、ジャッジする場面は4回あります。まず、打ち上げ18時間ほど前にロケットを組み立て棟から打ち上げ射点に出すかどうか。約10時間前には液体燃料を充?するかしないかを決める。60分前に打ち上げに向けた最終作業に入るか否か。そして、最後の10分間。ここはもうお天気次第ということもあります。
前代のH2時代の2回を含めると、日本の大型ロケットは3回、打ち上げに失敗しています。私も現場でかかわっていましたが、非常につらかった。H2Aで初の失敗となった6号機(03年11月)も、最後の最後までルーティンを詰め切れていなかったのだと思います。4回目の失敗は許されない。民間移管後の最初の打ち上げはものすごいプレッシャーでした。
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