(日経ビジネス2018年3月26日号より転載)

気付いたらゴミを拾う
周囲の視線は気にせず 正しいことを堂々と

(写真=山田 哲也)
(写真=山田 哲也)

 落ちているゴミを見つけたら、拾わなければなりません。無視して通り過ぎた後で、「実は気付いていたんだ」と言ってもだめ。やるべきことが分かっているなら、大事なのは実行することです。

 バブル真っ盛りの1989年。私は米国の合弁会社に、財務担当副社長として赴任しました。繊維メーカーとして成長してきたグンゼは当時、非繊維事業の拡大を目指して新分野への進出を急いでいました。そこで出資した一社が、経営の混乱から事業を立ち上げられずにいたのです。

 グンゼが出資した狙いは、「プラスチックランプ」の技術を取り込むこと。既存のランプと比べて長寿命で低コストという利点があり、米国では飛行機のコックピットや自動車の計器類のバックライトとして期待されていました。一方で既存技術と比べて、未完成な点も多かった。

 本来ならば合弁会社の社長が腹をくくり、新旧どちらの技術を推進するか、方針を定めるべきでした。しかし決めきれずに、どっちつかずの対応を続けたことで、社内で不協和音が高まっていたのです。

 私の使命は、その社長にリーダーシップがあるのか否か、自分の目で見極めることでした。50%の株式を保有していたグンゼとしても、混乱を長引かせるわけにはいきません。

 「個室は要らない。あなたと机を並べて仕事がしたい」。渡米する前、私は彼に1通の手紙を書きました。嫌なやつだと思われたでしょうが、まずは状況を把握する必要があります。

 一緒に働きだすと、問題が分かってきました。製造の立ち上げで苦労しているときに、トップが現場に出ずに、むしろ社長室に閉じこもっていたのです。そこで赴任の翌年、私は社長を解任しました。人心を統一するには、それしかないと確信したからです。