(日経ビジネス2017年12月25日・2018年1月1日号より転載)

(写真=山田 哲也)

 前身の「一澤帆布」が創業したのは1905年。初代の一澤喜兵衛がクリーニング店を営みながら、手に入れたミシンで職人向けに道具を入れるかばんを作り始めたのが始まりです。曲がりなりにも会社が110年以上も続いてきたのは、「無い無い尽くし」だったからじゃないですかね。

 ウチには専任のデザイナーもいなければ、営業部もありません。70人ばかりの小さな会社ですから、全員がかばんを作り、売ります。職人も売り場に立ちますから、お客さんの声をじかに聞きます。その声を生かして次の新作に生かします。スマートフォンが入るポケットが欲しいといわれたら、デザインを変える。ウチは大量生産していませんから、細かな改良は頻繁にしています。だから、かばん作りのマニュアルもありません。

 こんないいかげんな会社が生き残ってこられたのも生活に密着したかばんを作ってきたからでしょうね。氷屋さん、牛乳屋さん、薬屋さんの配達袋や大工さんや左官職人向けの道具入れなど、それぞれの用途に合わせて、丈夫で長持ちするかばんを作ってきました。

 それに帆布という厚地の織物が合っていました。加工は難しいのですが、天然素材なので使えば使うほど味が出てくる。世の中の大半のかばんは化学繊維を使っているでしょ。すると新品の時が一番良くて、後は劣化していくだけ。その点、帆布は汚れや傷がついていくほど「いい顔」になっていきます。ウチで使用している帆布は専用品で、色あせしないように生地の芯まで染めてもらっています。ボタンやハトメなどの金具もすべて特注品です。

 店舗も京都に1つしかありません。ありがたいことに出店の要請はいろいろといただきますが、自分たちの目の届かないところで売りたくありません。だからホームページはありますが、オンラインショップもありません。

 製造直販をかたくなに守ってきたので流通経費がかかりません。その分、材料や手間にコストをかけています。目に見えていないところをきっちりと作ってあるので、長い間使うと差が出ます。それがお客さんの信頼につながります。