写真・動画共有アプリ「Snapchat(スナップチャット)」を提供する米スナップが米国時間の5月20日、新しい眼鏡型端末を発表しました。目に見える景色に映像を重ねて表示して拡張現実(AR)を実現する、一般に「ARグラス」と呼ばれる端末です。
 友人から受け取った写真やメッセージを一度閲覧したら見られなくなることで知られるスナップチャット。写真や動画を加工してその場の雰囲気を友人同士で共有するツールとして、依然として若いユーザーから支持されています。そんなアプリを提供するスナップが、なぜARグラスを手掛けるのでしょうか。
 スナップの2021年1~3月期の決算資料によると、1日当たりの平均アクティブユーザーは世界で約2億8000万人。このうち米国が9300万人、欧州が7700万人と、欧米が約6割。「Z世代」や「ミレニアム世代」と呼ばれるような、13歳から34歳までのユーザーが特に多くを占めるのが特徴です。
 こうした世代には、自動車の購入や1人暮らしの開始、就職、結婚、子育て、家の購入など、消費を伴うイベントが多く存在します。そのためスナップは広告事業が好調。20年通期の売上高は約25億ドル(2700億円)で、前年比で50%近く増えました。依然として赤字ではあるものの、赤字幅は着実に小さくなっています。
 実は、スナップが眼鏡型端末を販売するのは初めてではありません。カメラ機能だけを備えた眼鏡型端末を販売してきたのです。ただ、スナップチャットが人気の米国ですらほとんど売れておらず、「在庫の山を抱えている」と米メディアは報じています。眼鏡型端末で撮影した写真をスマホなどの別の端末で見る手間や、400ドル(約4万3500円)近くするという価格で敬遠されたようです。
 こうした「失敗」にめげることなくARグラス市場への参入に踏み切ったスナップ。発表の翌日にはARグラスの重要部材である映像表示用の光学部品のメーカーを約5億ドル(約544億円)で買収すると明かすなど、強い意気込みが伝わってきます。
 今回発表したARグラスは、ARコンテンツの制作者に向けた、いわゆる「開発者版」です。ARグラスによって日常生活やコミュニケーションのあり方をどのように変えることができるかを模索するための端末と位置付けています。
 端末を手に持たなくても情報が見られるARグラスは、業務用で徐々に利用が始まっています。その一方で、消費者向けは死屍累々(ししるいるい)の状況。普及を促す用途と、それに見合った重さや価格の端末がいまだに見つかっていないのです。米グーグルが12年に発表した「Google Glass(グーグルグラス)」も、当初は消費者向けを想定していましたが、今は業務用のバージョンだけがひっそりと販売されています。
 スナップの試みが成功するかどうかはまだ分かりません。ただ、スナップチャットで育ててきたARコンテンツ制作者のコミュニティーが強みになると考えているようです。200以上の国と地域に15万人以上の制作者がいるとスナップは説明しています。これまでのスナップチャット向けの開発ツールでARグラス向けのコンテンツも制作できるようにすることで、ARグラスの一般発売を前にコンテンツをそろえる算段です。
 米国のIT(情報技術)大手もARグラス市場への参入を虎視眈々(たんたん)と狙っています。米フェイスブックはARグラスを開発中と表明しており、グーグルは消費者向けARグラスを手掛けるカナダのノースを20年に買収するなど、まだ意欲を見せています。米アップルも通称「Apple Glass」を開発中だと噂されています。6月にはアップルが開発者向け年次イベント「WWDC」を開きます。その前後で新たな動きが出てくるかもしれません。
(根津 禎=シリコンバレー支局)

(写真:スナップが公開した動画からキャプチャー)