米テスラが「上客」を失うと米国で話題になっています。仏グループPSAと欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が統合して1月に発足した欧州ステランティスが、「温暖化ガス排出枠(クレジット)」をテスラから購入する契約を解消すると表明したのです。
 テスラは電気自動車(EV)や太陽光発電システム、蓄電池システムなどの製品を販売するだけでなく、他の自動車メーカーに温暖化ガス排出枠を売却して収入を得てきました。ステランティスが取りやめるテスラからの購入額は約2億ユーロ(約264億円)になるとみられています。一見すると小さな金額ですが、売り上げがほぼそのまま利益になる温暖化ガス排出枠は、最終損益に大きく影響します。
 テスラが4月26日に発表した2021年1~3月期決算は、売上高が103億8900万ドル、最終利益は4億3800万ドルでした。このうち、温暖化ガス排出枠の売却収入として5億1800万ドルを計上しています。温暖化ガス排出枠のおかげで黒字を確保できたともいえる状況なのです。
 ステランティスは契約解消の理由を、自社の努力によって他社に頼らずに欧州の環境規制に対応できるようになったからと説明しています。ステランティスの後を追うようにテスラからの温暖化ガス排出枠の購入を取りやめる自動車メーカーが増えそうです。これがテスラの赤字転落を招くかもしれないとの見方が強まっています。
 テスラには自動運転でも逆風が吹いています。4月中旬、米テキサス州でテスラの高級EV「モデルS」が木に衝突して炎上し、乗員の男性2人が死亡する事故がありました。うち1人が助手席、もう1人が後部座席で発見されたことから、地元警察は衝突時に運転席が無人だったと思われるとしていました。
 テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は事故後間もなく、「これまでに回収されたデータログでは、(運転支援システムの)オートパイロットが有効になっておらず、FSD(自動運転向けの車載システム)も購入していない」とツイッターに投稿しました。この事故とテスラ車の自動運転系の機能とは無関係だと主張したわけです。米運輸安全委員会(NTSB)が5月10日に発表した暫定報告では、所有者が自宅を出た際には運転席に乗ったとされています。
 事故原因はまだ調査中ですが、運転席が無人になってもオートパイロット機能を動作させ続ける「抜け道」があることはテスラ車オーナーの間で知られた話でした。ステアリング部分に重りを付けておくと、ステアリングのセンサーに「手が置かれている状態だ」と誤認識させられるというものです。大手EC(電子商取引)サイトでも専用の重りが売られているほど。テスラの安全対策が不十分だとの指摘は以前からあり、今回の死亡事故で再び批判が巻き起こりました。
 そもそもテスラの自動運転機能は、運転者が常に監視しなければならない「レベル2」相当。その機能に完全自動運転を意味する「FSD(Full Self-Driving)」という名称を付けるテスラの企業姿勢への疑問の声も上がっています。完全自動運転機能の早期達成に自信を見せるマスクCEOは、自動運転AI(人工知能)の成果を発表するイベントを21年夏に開催すると表明しています。
 21年1月に800ドル台後半だったテスラの株価は、足元で617ドル(11日の終値)まで下がりました。温暖化ガス排出枠や自動運転で逆風が強まる中、テスラは力強く成長していけるでしょうか。
(シリコンバレー支局 根津 禎)